第241話 新しい家臣

 リクヤが目を覚ましてから数週間経過した。


 しばらくは、城の医務室で安静にして貰っていたが、リクヤは回復力が高く、怪我も順調に良くなり、思ったより早く完治した。


 ちなみにリクヤの持っていた龍絶刀はもちろん返還することになった。


 ロブケから剣を購入した、テーネスにはロブケから金は返してもらい、盗品と知って取引を行ったロブケは、カナレで二度と商売が出来なくなるという罰則を受けることになった。


 リクヤが回復したので、私は龍絶刀を渡しに行った。


「龍絶刀……取り返してくれたのか……」

「取り返したというか、こいつがあったから盗賊の居場所が分かったという感じだ」


 私は龍絶刀をリクヤに差し出すが、リクヤは受け取らなかった。


「どうした? 受け取ってくれ」

「こいつは受け取れない」


 リクヤは首を振って、受け取るのを拒んだ。


 なぜそんなことを?


 リクヤの意図が読めず、私は困惑した。


「龍絶刀までただで取り返してもらうってのはな……命を助けてもらったのに……そこまで大きな借りを作るわけにはいかない」

「借りなどと……奴らはカナレに住む犯罪者であり、この街を統治するローベント家には、犯罪者から市民の身を守る義務がある。むしろ怪我をさせてしまったことを、謝る必要すらあると思っているくらいだ」

「おいおい、助けてもらって謝られたら、こっちの立場がないからやめてくれ。俺はローベント家に命を助けられて、大きな借りを作った。それは間違いない」


 その考えについて改める気はないようで、龍絶刀を受け取るのも、リクヤは拒み続ける。

 この剣がなければ、リクヤたちはだいぶ困るだろうし、受け取って欲しいのだが、どうしたものか。


「こんなこと、何度も断った俺から頼むのは申し訳ないんだが、俺たちをローベント家の家臣にしてくれないか?」


 リクヤはそう頼んできた。


「絶対に家臣になって働いて借りた恩は返すから、頼む」

「いや家臣になるのは別にいいが……というかいいのか? 君たちは王族なんだろ?」

「まあ何だ。王になるより大事なことがあるって気付いたからな。虫のいい話なのは分かっているが、どうか頼む」


 心変わりがあったのか、リクヤは何度も頭を下げて家臣にして欲しいと頼んできた。


「わ、私からも頼む!」


 今まで近くで静観していたマイカがそう言った。


「私はこう見えても、そこそこ頭が切れるし、タカオは見ての通り戦ったら強い、兄者は……これと言って特技はないのだが、これと言って欠点もなく、何でも器用にこなせるので、割といたら便利だと思うぞ!」

「おい! 俺のアピールだけちょっと投げやりじゃねーか!?」


 マイカのアピールに、リクヤは憤慨した。


 アピールをされなくとも、三人の力は理解している。

 二度断られたからと言って、別に怒っているわけではない。


「君たちに家臣になって貰えれば私も嬉しい限りだ。こちらこそよろしく頼む」


 リクヤの頼みを私は快諾した。


「ありがとう……ありがとうございます! 家臣になったからには絶対力になると約束します!」


 リクヤは何度も頭を下げた。


「この私を家臣にしたのは大きいですぞ、主様(あるじさま)」

「あ、主様?」


 家臣になった途端、マイカは変な呼び方をしてきた。


「家臣になったら美味しい物いっぱい食えそう。満足」


 タカオは相変わらずのようだ。


「しかし、家臣になったからと言ってやはり王になる夢は諦めきれぬぞ兄者よ。このまま我らの活躍で主様をサマフォース帝国の皇帝にし、その功績でこのミーシアンを貰う。それから、兵を率いてヨウ国を攻め落とし、王として支配してやるというのはどうだ」

「こ、皇帝?」


 妙なことを言い出した。

 皇帝になるつもりなど毛ほどもない。

 この戦乱の時代で、上手い事生き残れたらとしか私は思っていない。


「そんなことになったら、俺たちは完全な侵略者じゃねーか」

「ふん、追い出す方が悪いというものだ。というか、今考えれば一番これが現実的な気がするのう。主様の特殊な力があれば、皇帝に成り上がるのも夢ではないし」

「お、おい、滅多なことを口にするな。私は皇帝になるつもりはない。平和に生きたいだけなんだ」

「何と、そのようなお考えでどうなさいますか。大体、この戦乱は新しい皇帝が出てくるまで、終わりませんぞ。主様が皇帝になれば丸く収まるというものです」

「いやいや、それまでに戦わないといけないだろ……それに私はそんな皇帝になるような器では……」


 そんな会話をしていると、


「それはいい考えですね。アルス様こそ確かに皇帝になるべきお人です」


 さっきまでいなかったリーツがいきなり出てそう言ってきた。


 私たちの話を聞いていたのだろうか?


「アルス様のように、人種や性別に惑わされず、すべての民を平等に評価できる者こそ、皇帝になるべきです」

「いやだからな……まあ、ある程度出世した方がやりやすいとは思うが、皇帝は言い過ぎだ。期待に応えられなくてすまんな」


 ここはそう言って、話を終わらせた。変に期待をされても困るしな。


 こうしてリクヤ、マイカ、タカオの三人が新しく家臣になった。




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