第240話 救出

「リクヤさん達を攫ったのは、アジトから押収した音を消す魔道具や、盗品の種類から言って、間違いなく我々の追っていた盗賊団だったようです」

「そうか」


 リーツはそう報告をした。

 結論から言うと、やはり龍絶刀は、リクヤたちが売った物ではなく盗品だった。そして、リーツたちは上手く盗賊団のアジトを見つけ出し、盗賊団を一網打尽にすることが出来た。今はアジトにいたすべての盗賊団員が、カナレ城の地下牢に放り込まれている。

 盗賊団は慎重に物を売るタイプだったようだが、今回はリクヤたちの剣ということで盗品とバレる可能性が低いと思ったのか、雑に販売したようだ。


 テーネスに剣を売ったロブケは、最初は盗品であるとは知らなかったと言っていたものの、最終的には盗品と知って購入したと白状した。

 盗品はリスクがある分、安く出回るので、最近商売がうまくいかなくなり始めていたロブケは、手を出してしまったようだ。


 ロブケに物を売った男の特徴を聞き出し、その男の痕跡を町で聞き込みなどをしながらたどっていくと、あっさりとアジトにたどり着くことが出来たようだ。アジトの中では、捕らえられていたリクヤたちが脱走を試みており、軽い混乱が起きていたので、そこからリーツたちに抵抗できるはずはなく、あっさりとお縄に付くことになった。


 マイカとタカオは、大きな怪我はしておらず無事保護できた。


 問題はリクヤだ。


 彼は盗賊からメイスで殴られ、頭に大怪我を負っていた。


 現在意識不明の重体のようだ。

 脳にまで致命的な傷はないようだが、単純に血を流しすぎて危ない状況だという。

 この世界の医療はそこまで発達はしていない。

 回復魔法もあるにはあるが、パラダイル州が独占しているので、カナレにはなかった。

 輸血技術が全然進んでいないので、輸血も不可能。

 回復するかはリクヤの生命力次第だと、リクヤの治療に当たった医師は言った。


「助かるだろうか、リクヤは……」

「そうですね……僕も医療の事については何とも言えず……まあ、若くて元気のありそうな方ではありましたので……」


 リーツも言葉を濁していた。


 私たちが話していると、救出したマイカとタカオが現れた。

 私の姿を見ると、すぐにマイカは、


「頼む……いや、頼みます! 兄者を助けてください!」


 そう頼み込んできた。

 彼女は目の下を赤く腫れさせていた。随分泣いたようだった。


「最善は尽くしている。きっと助けられる……はずだ」


 状況が状況だけに、無責任に絶対に助けられるとはいう事は出来なかった。


「頼みます……兄者を……兄者を助けて下さい……頼みます……」


 体を振るわせ、涙を流しながら、マイカはすがるように何度も頼んできた。

 最初に会った時の、気の強そうな彼女とは全く違った姿だった。こっちの方が素なのだろうか。


「大丈夫。兄貴が死ぬわけない」


 とタカオの方は、どっしりと全く動揺せずそう言った。

 リクヤが生き残ると、心の底から信じているようだった。


 完全に落ち込んでいたマイカも、タカオの落ち着きぶりを見て、少しだけ気を取り直したようだ。


 それから、数時間経過し、


「リクヤ様の意識が戻りました!」


 そう報告があった。



 〇


「どこだここ……」


 リクヤは目を覚ました後、キョロキョロと周囲を見渡した。

 フカフカのベッドに天井は白い。

 体を起こそうとすると、頭に激痛が。


「いたっ!」


 反射的にそう声を出した。


 すると、慌てたようで、メイド服を着た女がやってきた。


「患者さんが目を覚ましました!」


 はしゃぎながらメイドはそう言った。

 それに答えるように、


「おお本当か! アルス様に報告しに行くんだ!」


 と中年くらいの男の声が聞こえてきた。


(どこだここ……この人たちは誰だ……というか俺はさっきまで盗賊に捕まってたよな?)


 状況がいまいち飲み込めない。


(てか、さっきアルスって言ってなかったか?)


 少し前にあった、郡長をやっている少年の姿が、リクヤの頭に思い浮かべる。


 どうしてここにいるのか思い出そうとしていると、中年の白衣を着た男が目の前に座った。


 男はリクヤをじっと観察するように眺める。


「これが何本か分かるかい?」


 と指を二本立ててそう言ってきた。


「二本だ」


 じゃあ、これは?

 と今度は両手の指で六本の指を立ててきた。


「六本だ……ってなんだこれ」

「うんうん、異常はないみたいだね」


 勝手に白衣の男は納得しており、リクヤは少し不愉快に思う。


「……てか、マイカとタカオは? えーと……小さい女の子と、デカい男を近くで見ませんでしたか?」

「あー、あの二人ね。多分もうすぐこの部屋に来ると思うよ」

「もうすぐ?」


 疑問に思っていると、部屋の扉が開く。


「兄者~!!」


 両眼に涙をたっぷりと浮かべたマイカが部屋に入ってきた。

 マイカは、リクヤに向かって駆け寄り、抱き着いた。


「兄者の馬鹿者! リーツ殿があの時来ていなければ、死ぬかもしれんところだったんだぞ! かばわれる身にもなれ!

 !」


 ぽかぽかとリクヤの胸を叩きながら、マイカは文句を言った。


 マイカのかばわれるという言葉を聞き、頭を怪我した経緯をリクヤは思い出した。


 そして、部屋にアルスとリーツの姿があったことから、間一髪で助けだされたところまで察した。


(ということは、ここはカナレ城か……今度は命を助けられちまったな)


 軽くため息をついて、自分に抱き着くマイカを見る。

 小刻みに震えながら泣いていた。

 心配をかけさせてしまったと胸が痛んだ。


 リクヤはマイカの頭を撫でながら、


「ごめんな」


 と謝った。


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