第237話 盗品
リクヤたちが失踪してから数日経過。
結局、見つかることはなかったので、捜索は打ち切った。
盗賊団の対処など、仕事はまだまだ多いので、この町にいない可能性が高い三人の捜索に、いつまでも人員を割くわけにはいかない。
もう会うことはないかもしれないな。
そう思ってた矢先だった。
「アルス様、商人がお目通りを願いたいとのことですが、どういたしますか?」
商人か……
たまに商人が物を売りたいと言って来ることがある。
リーツに判断を任せても良いのだが、値段が張る物を買うときは、一存では決められないと言うので、私も一緒に面談することが多い。
商人は主に珍しい魔道具や、美術品などを紹介してくる。
魔道具は日頃の生活を便利にしてくれるものがあるので、良さそうと思ったら買うこともある。
美術品はあまり興味はないので、あまり買うことはない。
値段が張るので、買う余裕も今まではなかった。
ただ、ほかの貴族との外交も最近では大事だろうと思っており、美術品を友好の証としてプレゼントした方が良さそうなので、そろそろ買ってもいいかもしれない。今は買う余裕がちょっとづつ出てきたし。
カナレ城の応接室で商人と話をすることにした。
今回来た商人は、年齢は30代くらいの、温和そうな顔をした男だった。
「初めまして、私テーネス・カムチャーと申します。カナレを拠点に商売をしている者なのですが、最近珍しい品が手に入ったので、すぐにでもアルス様のお目に入れて頂きたく、馳せ参じた次第でございます」
男は自己紹介をした。
聞いたことはある名だった。だが、会ったことはない。カナレにも大勢商人はいるので、全員の顔と名前は流石に覚えていない。
テーネスは細長い箱を背負っており、それを目の前にあるテーブルの上に置いた。
そして、その箱を開ける。
箱の中身を見て、私は驚いた。
横で見ていたリーツも驚いている。理由は恐らく一緒だろう。
「恐らく異国の職人が作った剣で、見てくださいこの鞘の意匠……本物の金が使われて……ってあれ? 物凄くご興味がある様子。お気に召されましたか?」
中に入ってたのは剣だった。
私とリーツはその剣を釘付けになって見てしまう。
別に剣の見た目が良かったからとかそんな理由で見ていたわけではない。
明らかにその剣は、リクヤの持っていた龍絶刀だったのだ。
あれだけ特徴的な見た目だ。
見間違いということはない。
同じ剣が二振りあるということも、考えられないだろう。
これを商人が持っているということは、リクヤたちは売ったのだろうか?
販売先を探すから、ローベント家経由で高く売れる相手を探して欲しいとマイカが言っていた。
と言っても、別に町の商人に直接売っても別に悪くはない。最も、あの剣が、本来どれくらいの値段で売れるかは、色んな人に聞いてみないと分からないことではあるので、近くの商人に売るというのは少し勿体無い気もするが、即座に金を手に入れたいのなら、悪い選択ではない。
ただ、マイカは何か事業を起こしたがっており、それで出来るだけ高値で売りたいと考えてはいたはずだ。
そう考えると、ローベント家の力を借りる借りないは別として、こんなに早く剣を売るのは不自然だ。
もしかしたら、盗品の可能性がある。
そう思っていると、
「この剣はどなたから購入されましたか?」
リーツが私のしたかった質問をしてくれた。
リーツの目つきと口調はかなり厳しい。尋問をするような感じだ。
商人はその様子に、ただ事でないと感じたのか、焦った様子になる。
「え、えーと、同じくカナレにいる商人のロブケ殿から購入しました。最近やりくりに困っているようで、安めの値段だったので、二つ返事で購入しました」
「ロブケ……とはカナレの町の南地区で店を構えている、小太りの方ですね?」
「はい……そ、そうですが……あの、この剣が何か?」
「この剣は盗品である恐れがありますので、念のため調査させていただきます」
「と、盗品!?」
商人は驚いて声を上げた。
盗品の売買は、カナレの法律でもちろん禁じられている。
知らずに売ったり買ったりした場合は、処罰されることはないが、盗品の恐れがある品の調査を拒むと有罪である。
知らずに買った商人からすると、調査を強制されるのは理不尽に思えるが、盗賊は真っ当な商人にとっては自らの商品を盗むかもしれない迷惑な存在なので、現状の規則に反対している商人は少なかった。
「わ、分かりました。この剣について知ってることは話します。ただ、盗品と知って購入したわけではありません。これだけは誓って真実です」
青ざめた顔でテーネスは主張した。
「わかっております。そもそも盗品と確定したわけではありませんしね。疑いがあるので、とりあえず調査をするというだけです」
安心させるようにリーツは言った。
それからテーネスから情報をある程度聞き出した。
ロブケから買った値段は金貨80枚だったようだ。ロブケはさらに安値で購入したようだ。
これを聞くとますます怪しく思える。
リーツが最低でも金貨100枚はすると言ったので、それ以下の値段で売る事は流石になさそうだが。
盗品の場合は、さっさと売りさばくので、相場がはっきりしていない物に関して、安価で出回る事も多いようだ。
「どう思うリーツ。本当に盗品なのだろうか? それともリクヤが自分で売っただけか?」
「そうですね……状況的に盗品であるという可能性はあると思いますよ。そもそもリクヤさんたちが夜逃げしたという話を聞いた時、そんなことする人たちだろうかと、少しだけ違和感はありましたから……」
私も違和感を感じていたので、そこは同意見だった。
「仮に今回盗まれたのだとしたら、恐らく盗んだのは我々が追っている厄介な盗賊団だと思います。証拠を残さず盗んでいっているので、ほかの盗賊だともっと証拠を残すでしょう。リクヤさんたちの事を抜きにしても、盗賊を捕まえるチャンスではあります」
「そうだな……リクヤ達は一体どうなったのだろうか?」
「攫われたか……殺された……とは考えたくはないですね。あまり人を攫ったり殺したりする事はない盗賊団ですので、そこは違和感がありますね。まあ、何か不測の事態が起きたのかもしれませんが」
「リクヤたちは剣を取られたことで、取り返そうとしているとか考えられないか?」
「カナレでリクヤさんたちの調査はして、目撃情報も得られなかったので、それはないと思われます。見た目は目立つので、盗賊の調査をしていたのなら、誰か必ず見ているはずですし」
それもそうだな……となると、攫われたか殺されたかの二択か。
「宿屋で争った形跡がなかったことから、あの場で殺されたとは考え辛いです。となると一度攫われたのでしょうが、そうなると殺すより奴隷として売った方が得ではありますので、殺してはいないと思います」
リーツはそう分析した。
私もそう思った。というかそうあって欲しかった。
「とにかくなるべく早く盗賊団を見つけ出してくれ。頼む」
「はい。早速ファムたちを呼び、調査を行います」
リーツはそう言って、すぐに調査を始めた。
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