第235話 盗賊
夜が更けた頃、ベッドで寝ていたタカオは気配を感じて目を覚ました。
(誰か入ってきた……)
数は二人。性別年齢は不明。
夜なので暗く、視界は著しく悪い。
その上、物音も特に聞こえたというわけではないのだが、彼は超人的な感覚で侵入者の存在をいち早く察知していた。
リクヤとマイカは気づいていない。
寝息を立てている。寝ているようだ。
侵入者がリクヤの側に近付く気配をタカオは察知した。
タカオは瞬時に起き上がり、侵入者にタックルをした。
巨体とは思えないほどのスピードだ。
タカオは大きくてパワーもあるが、その上スピードもあった。身体能力が、非常に優れていた。
巨体に突進され、侵入者は吹き飛び壁に激突した。
明らかに強く壁に当たったのに、物音が全くしなかったことに、タカオは少し疑問に思ったが、理由を考えようとは思わなかった。戦うのは得意であるが、考えるのはあまり得意ではない。
タカオに吹き飛ばされた侵入者だったが、彼も常人ではないようですぐに立ち上がった。身構えながら、懐からナイフを抜いた。
タカオは武器は持っていないが、怯むことはなかった。
彼は格闘能力が非常に高く、相手が武器を持っていても、簡単に制圧できる自信があった。
タカオは侵入者を撃退するため臨戦態勢を取った。
〇
「なんだぁ……」
タカオがタックルをかました事で、リクヤが目を覚ましていた。
寝ぼながら周囲を見る。
「っ!」
暗くて見え辛い状態ではあるが、僅かな明かりはあるので、リクヤは侵入者を見ることが出来た。
瞬時に近くにあった龍絶刀を手に取り、引き抜き臨戦態勢を取る。
リクヤは自分からは動かない。視界が悪いので不用意に斬りかかって外したりしたらまずい。急な襲撃ではあったが、リクヤは冷静に行動をすることができていた。
しばらく両者とも動かなかったが、先に侵入者が動いた。
向かった先はリクヤとタカオの方ではなく、騒ぎが起きてもまだ寝ていたマイカだった。
この暗い中、侵入者は見えているかのように、マイカの寝ているベッドへと一直線に向かう。夜目が効くようだ。
自分達の方に来ると思っていたリクヤとタカオは、一瞬敵の動きの意図が分からず反応が遅れる。
マイカを狙っていると先に気づいたリクヤが、阻止するために動き出すが、間に合わなかった。
侵入者はナイフを取り出し、マイカの首に押し当てる。
その後、懐から魔道具を取り出し、それを操作したあと、喋り始めた。
「動くな。動いたらこいつがどうなるか分かるな?」
男の声だった。
それを聞いて、タカオとリクヤは表情を凍りつかせる。
さっきまで寝ていたマイカも流石に目を覚ました。
自らの首に押し当てられたナイフと、先ほどの言葉から状況を瞬時に理解したようだ。
焦ったような表情を浮かべる。
「まずその剣を渡せ」
「っ!」
侵入者の要求を聞き、リクヤは目を見開いた。
渡さなければマイカの命はない。
侵入者から言われなくても、それは分かった。
「渡すな兄者」
マイカは覚悟を決めたような表情で言った。
「その剣を渡しても私の命が助かる保証はどこにもない」
「命は助けるさ。こいつを殺したら、そっちの化け物に殺されるかもしれんからな。二人がかりでも倒せる自信はない。もっとも、剣をもらったからと言って解放はしないがな。しばらく俺たちの指示に従ってもらう」
強気な口調で侵入者はそう言った。
マイカに人質としての価値があると分かった上での強気な態度のようだ。どうやら三人の関係性を事前に調べていたようである。
「分かった。渡そう」
「兄者……!」
リクヤはマイカの言葉を聞くつもりはなかった。
ここで従っても、三人無事に解放されるという可能性はそれほど高くはない。相手は犯罪を犯したという証拠を残したくはないだろうし、このまま侵入者の指示に従い続ければ、剣を取られ、さらに三人全員死んでしまうという結末もあり得た。
仮にここでマイカを見捨てれば、剣は盗まれず、リクヤ、タカオは無事に生き残れるだろう。
だがリクヤとしては、ここでマイカを失うわけにはいかなかった。
最終的に三人が死ぬというリスクを冒してでも、剣を渡してマイカをひとまず助けるという決断をした。
リクヤは剣を侵入者に差し出した。
「賢明な判断だ」
侵入者はリクヤの差し出した剣を受け取った。
「なあ、こいつらどうするんだ? 殺すのか?」
「俺たちは盗賊だ。殺しは極力しねぇよ。こいつらはアジトに連れて帰って、とりあえず牢に閉じ込める。それからどうするかは頭と相談して決める。まあ、大かた奴隷として売っ払うか……もしくはこいつらの身内に身代金を払えって脅すかだな」
冷静な口調で、リクヤ達の処遇を男は語った。
「とりあえずそのデカ男の手を縛れ。おい、動くんじゃねーぞ」
その言葉に従い、タカオの近くにいた盗賊が紐を取り出して、タカオの手を縛り拘束した。
「さあ、付いてこい」
マイカを人質にされている状態なので従うしかない。
リクヤは大人しく盗賊たちに付いていくことになった。
外に出て町中を歩く。
夜の町中は人通りがかなり少ない。
と言っても、盗賊がいることは知れているので、警備兵が町中をうろついていた。
しかし、盗賊たちは警備の動きや位置をある程度把握しており、さらに魔道具で物音を消しているので、中々発見されない。
リクヤ達もマイカを人質に取られているので、不用意に動くことは出来なかった。魔道具は所有者だけでなく、近くの人間の音も消せるようなので、リクヤ達が出す物音から気付かれるということもなかった。
結局警備兵に見つかる事はなく、リクヤ達は盗賊団のアジトまで連行された。
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