第234話 仕事
カナレの街、とある宿屋。
住み込みで働く事になったフジミヤ三兄弟は、働いた後部屋で休憩していた。
「あー疲れた! というか聞いておらんぞ! 私も普通に力仕事させられるではないか!」
疲れてテンションがおかしくなっているマイカがそう叫んだ。
元々、収支計算など事務作業をする予定であったが、客が多すぎてマイカも料理を運んだり、掃除をしたり、荷物を運んだりなど力仕事をさせられる事になった。
「そんなきつかったか? 俺はまかない貰えて大満足。一生ここで働きたい」
タカオは疲れた様子はなく、逆に幸せそうな様子だった。
よく働くタカオに、宿屋の店長がまかないを普通より多く振る舞ったので、それだけで彼は満足だったようだ。
「冗談ではない。なるべく早く仕事は辞めて独立するぞ。我らはかなり無茶なことをやろうとしておるのだ。なるべく早く戦力を整えなければ、成功確率は今よりさらに下がるだろう。カナレ郡長のローベント家に、才能を認められていると言うのは僥倖でもある。この町で事業を起こすのに手助けしてくれるかもしれん。何度も手を借りるのは少々癪ではあるが、文句を言っていられるような状況ではないのでな。とにかく、兄者が龍絶刀を売る決断をすればいいのだが……」
マイカはリクヤの方を見る。
彼は、まだどうするか悩んでおり、龍絶刀を手に取り眺めていた。
「うーん……いやでもな……」
「俺もその剣売った方がいいと思う。街歩いてると、良くない視線を感じる」
「良くない視線? 盗人にでも目をつけられておるのか? タカオは昔から感覚が鋭いからな」
タカオは戦闘においては、腕っ節が強いだけでなく勘も鋭い。隙も少なく、相当な実力を持っていた。
「見た目的に高そうだからな。そう言う意味でも、あんまり長く持たん方が良いか」
「盗まれはしないだろ。肌身離さず持ってるんだから。仮に強引に奪いにきても、タカオと俺なら追い払える。今までも何度か似たようなことはあっただろ?」
サマフォース帝国に来てから、何度か危険な目には遭ってきたが、その度に三人は力を合わせて切り抜けてきた。
「今までは大丈夫だからといって、これからも大丈夫だと言う考えは危険だぞ。金のためなら人間は人殺しだってするからな。剣を守るため死んでは意味がないぞ」
「それもそうだな……」
リクヤは龍絶刀を眺める。
「正直、俺も思い切って売った方がいいような気がしてきた。こいつがなければ俺は単なる平凡な男に過ぎない。それでも、フジミヤ家の血を引いているのは間違いないんだ。この剣を持っていないと胸を張って、フジミヤ家の当主である、と言えない、今の俺のままでいいとも思えない」
「その通りだ兄者。ヨウ国もこのサマフォース帝国も今は実力が物を言う時代に突入しておる。弱いところを見せれば死ぬような時代なのだ。まあ、兄者一人ではフジミヤ家を滅亡させた怪物どもには敵わぬかもしれぬが、我ら兄弟の力が合わされば、龍絶刀などなくともきっと勝てるはずだ。なあ、タカオ」
「うん、腹一杯食ってぐっすり寝れるようになる」
「……ちょっと期待した答えと違うが、まあ良いだろう」
「マイカ、タカオ……」
少し感動した目つきで、リクヤは二人の姿を見つめる。
「よし、決めた。売るぞ!」
リクヤはそう結論を出した。
「そうと決まれば早速、明日カナレ城に行ってみようではないか。あの者たちは信用できると思ったし、きちんと龍絶刀の販売先を見つけてくれるはずだ」
「俺もそれがいいと思う。その辺の商人に売りに行ったら、足元見られそうだしな」
「金がいっぱい。飯いっぱい」
「言っておくがタカオ。金は事業のための物だから、食事の量は増やしたりは出来ぬぞ」
「えー!?」
タカオはマイカの言葉に強いショックを受けたようだ。
「まあまあ、1日くらいは贅沢すんのもいいだろう」
ショックを受けるタカオをリクヤが慰める。
「ん……?」
リクヤは部屋の窓の方を見つめて、怪訝な表情を浮かべる。
「兄者、どうした?」
「いや、外で何か動いたような気がしたんだが……」
「ふむ……何者かが覗いていたのかもしれんな。タカオは何か感じたか?」
「窓の方、警戒してなかったから分からなかった」
「そうか。もしかすると盗人か何かがいるかもしれないから、警戒しておけ」
リクヤの指示を聞いたタカオは真剣な表情で頷いた。
○
カナレ城。
執務室にて私は報告を受けていた。
「フジミヤ三兄弟はきちんと宿屋で働いているそうです」
「そうか、それは良かった」
「しかし、少し心配な面もありますね。リクヤさんの持っていたあの剣ですが、一個人が持つには高価すぎる物ですので」
「確かにな……タカオはかなり強いのだろうが、それでも大人数相手に戦うことになったら、流石に負けるだろうしな……」
カナレでは一応厳しい法律を作り、さらに警備兵などを増やしたことで、治安は良くなっている。
それでも盗賊がいたりするので、犯罪はゼロにはなっていない。龍絶刀は見るからに高そうなので、犯罪者に目を付けられても不思議ではない。
「あ、それとファムから報告が上がっていたので、アルス様のお耳にも入れたいと思っていましたが、大丈夫ですか?」
「ファムから? どんな報告だ」
「ファムたちにはこの町で猛威を振るっている盗賊の調査をさせていたのですが、どうやらファムたちの力を持ってしても、尻尾を掴むには至らなかったようで、どうやら未知の魔法具を使っている可能性があるとのことです」
ファムたちに盗賊の調査をさせていたのか。こういうコソコソ犯罪を犯すような相手を見つけ出すのは、ファムたちにとっては得意分野だと思うが、それでもうまくいかなかったのか。思ったよりやり手のようだ。
未知の魔道具ってのも気になる。
魔法技術が進歩してきてから、サマフォースでは誰が作ったのかも分からないような、未知の魔道具が溢れている。
まあ、基本はガラクタだ。なので、戦では専ら触媒機が使われている。
ただ、極稀にそれなりに使い道がある魔道具が見つかることもある。
今回そう言った魔道具が使われ、その効果で盗賊が追っ手に見つからないようにしているのなら、見つけるのはかなり難しいかもしれない。
「どういった魔道具か、全く見当もついていないのか?」
「自身の出す音を消す効果があるようです」
詳しい原理は分からないが、音を消すのは音魔法でも使っているのだろうか?
確かに音を消せるとなると、物を盗み易くなりそうだ。
「盗賊団からの被害は数十件上がっており、今後は人員を増やして、調査網を広げていくつもりです」
「早く捕まえられればいいな」
というか、そんなやばい盗賊団がカナレにいるということは、リクヤたちは本当に大丈夫なんだろうか?
あとで、注意喚起をしておいた方がいいだろうな。
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