第232話 正体
翌日。
リクヤたちが、カナレ城へやってきたので、私はリーツと一緒に出迎えた。
「ここがカナレ城か……」
城の中に入ったリクヤは物珍しそうに、城の中を見ている。
「兄貴、今日は美味しい物いっぱい食べられるのか?」
「お前は食い物にしか興味ないな……仕事の話をしに来たから、飯は食わねぇよ!」
リクヤがそう言うと、タカオはしょんぼりとした。
それから三人を執務室へと案内した。
三人の素性や、ミーシアンに来た経緯、なぜ家臣になれないのかなど、詳しい事情を早く聞きたいところではあるのだが、まずは約束通り仕事の紹介をすることにした。
「しかし、本当に仕事を紹介なんてしてくれるのか?」
「はい、カナレは今発展している最中で、仕事の募集は多いですよ。どういった仕事をご希望なんですか?」
リーツがそう質問する。
「この私の英知を有効活用できるような仕事を希望する」
その質問にはマイカが答えた。
「えーと……頭を使う仕事という事で良いですか?」
「うむ」
マイカは頷く。
「待て待て、それはお前は良いかもしれないが、タカオには出来ないだろうが。タカオは力仕事くらいしか出来ないぞ」
「ち、力仕事だと? そんなもの非力な私が出来るわけないではないか」
特徴が違い過ぎて同じ仕事は出来なさそうだな。
「三人とも別の仕事をしてみてはどうだ?」
「べ、別の仕事……?」
私がそう提案した瞬間、マイカが不安そうな表情を浮かべる。
「い、いや、まあ、確かに悪くない案かもしれぬが、私がおらんと、兄者とタカオは心細かろう。やはり三人一緒に出来る仕事を見つけるべき……」
「ああ、こいつ言動は大物ぶってるけど、意外と小心者なところあるんだよ。やっぱ一緒に仕事できればいいな」
「しょ、小心者ではない! 私は兄者とタカオが心配で言ってるだけだぞ!」
マイカはかなり焦りながら誤魔化す。
「あー、はいはい、そういうことにしといてやるよ」
リクヤは適当にあしらう。
「マイカもだが、タカオも一人では仕事できないからな」
「飯食う仕事があったら一人でも出来るぞ」
「ほらこんなんだし」
確かにタカオを一人にするのは、かなり不安そうだな。
しかし、特技が対照的なマイカとタカオが同時に活躍できる仕事となると、何があるだろうか。
「そもそも我らは、どこかで仕事を貰うのではなく、新しく事業を始めたいと思っているのだ」
いきなりマイカが前提を覆すようなことを言ってきた。
「事業ですか? しかし、そうなると元手が必要ですが……」
「そうだマイカ、俺たちにそんなものはないぞ」
「……兄者がその宝剣を売れば、元手も得られるのだがな」
マイカは、リクヤが携帯している剣を見ながらそう言った。
「な! こ、これは絶対売らないって言っただろうが! 聞いてなかったとは言わせないぞ!」
「聞いてたが、納得はしておらぬ。実用性ならその剣はそれほど良いものではないし、さっさと売って金に変えてしまえば良いだろうに」
「おいおい、駄目だろそれは。こいつがなかったら、俺たちが帰った時、味方してくれる奴がいなくなる」
「ふん、この剣にそんな力があれば、我らがサマフォース帝国に来る必要もなかっただろう。人を動かすには必要なのはまずは金であろう」
「そんなことないだろ!」
何だか少し険悪なムードになってきた。話している内容は二人だけに分かるものだったので、よく分からなかった。
「タカオ、お前はどう思う!?」
「え……? 俺は兄貴に従うけど……」
「ほら、二対一だぜ!」
「タカオ、剣を売ればお金がたくさん入って、美味いものを食べ放題になるぞ」
「え? じゃあ、売ろう」
「ふふふ、二対一だな」
「おい、ひ、卑怯だぞ! タカオを巻き込むな!」
「最初に巻き込んだのは兄者だぞ!?」
マイカとリクヤは睨み合う。
「大体、この剣そんなに高く売れるのか? サマフォースの人にこの剣の価値は正確には測れないだろ」
「我らの国では値段をつけられぬ程の代物ではあるが……この国でどのくらいの値がつくかは分からぬな。ただ、使っている素材からして安値がつくことはあるまい」
マイカはそう断言する。
「その剣、ちょっとだけ見せていただいてもいいですか?」
リーツがそう尋ねた。
「まあいいけど」
そう言って、リクヤは剣を腰から取り、リーツに見せた。
反りが入っている剣で、前世で見た刀に近い形状である。
鞘は赤色と金色だ。金色の部分は実際に金が使われているようである。
鍔は金で出来ているようだ。青色の宝石が埋め込まれている。柄頭の部分も金で出来ており、そこにも青色の宝石が埋め込まれていた。
「剣を抜いてもらっても良いですか?」
「ああ」
リクヤは抜刀する。
綺麗な刀身だった。あまり刀や剣には詳しくはないが、腕の良い職人が作ってそうである。
「シミター……に近い形状の剣ですね。凄く良く切れそうだ。あと、この宝石はブルーダイヤモンドですね……」
ブルーダイヤモンドって言ったら、めちゃくちゃ高い物だったような……
いや、それは地球での話か。
この世界のブルーダイヤモンドがどのくらいするかは分からないな。
「鞘や柄の意匠も見事ですし、使っている素材も綺麗です。剣身を見る限り、剣としての実用性も高そうですね……これは武具収集を趣味としている貴族には、相当高値がつくと思いますよ。金貨百枚は最低でも超えてくると思います」
「百枚!? ってかなりやばい額だよな?」
金貨十枚あれば、一年生活できるので、それの十倍となるとかなりの金額ではある。
リクヤは相当驚いている。
逆にマイカは不満げな表情だ。
「もっと高いと思うぞ、私は千枚くらいはしそうだと思っておったが」
「あくまで最低ですので。コレクターの方達が、どのくらい評価をするかは、それこそ見せてみないと分からないでしょう。もしかしたら千枚という方がいてもおかしくはありません」
「千枚もあり得るのか……?」
リクヤは自らの手にある宝剣を見て、ごくりと生唾を飲み込んだ。
売れるだろうとは思っていたが、そこまで価値がつくとは想像していなかったようである。
さっきまで売るつもりは全くなかったようだが、少し心が動いているようだ。
「百枚じゃ事業を始めるのは心もとないし、もっと高値がついて欲しいところだな。そうだ、今回は仕事を紹介してもらうという話だったが、よければ宝剣の買取先を探してきてもらえんか? 売上の何割かは渡すし、悪くない話のはずだ」
「……おい! か、勝手に売る方向で話を進めるな!」
勝手に商談を始めたマイカを、リクヤが注意した。
「むう、しつこいのう。売ってしまえば、万事うまくいくかもしれんのに」
「ぐ……」
「そのお話は大変ありがたいので、販売したいというのでしたら、お話を聞きますよ」
リーツがそう言った。確かにローベント家としても、メリットしかない話だ。
リクヤは剣を見ながら悩みに悩んでいる。
いくら大事な物とは言え、金がない状態で金貨100枚以上というのは、即売ってしまいそうな気もするが、それでも悩むという事は、よっぽど重要な物なのだろう。
「確かにそれだけの金は欲しい……だが、結局この宝剣は……ヨウ国では値段をつけられないほどの代物なんだ。金貨千枚でもこいつの値段にしては安すぎる」
「それは事実ではあるが、ヨウ国にはもう帰れん以上、詮無きことであるぞ」
「ぐぬぬ……」
マイカの言葉を聞き、リクヤは反論する言葉がないようだ。
二人の口ぶりでは、ヨウ国では途方もなく価値のあるような剣のようだ。
本当なら何なんだろうかあの宝剣は。
確かに凄く腕の良い職人が作ってそうなのは分かるが、それだけでそこまでの価値はつかないだろう。
「その宝剣は何なんだ? そんなに君たちの国では価値のある物なのか?」
気になったので、私は尋ねてみた。
「これは代々フジミヤ家に伝わる家宝、龍絶刀(りゅうぜつとう)だ。名の通りかつて龍を斬ったとも言われる名刀だ」
「龍を斬った……」
龍はまだ異世界に来てから一度も見たことがない。そもそもいるのだろうか? サマフォース帝国には生息していない。外国にはいるらしいのだが、正直あんまり信じていない。異世界に来てから、羽の生えた犬とか、角のある猫とか地球にはいない動物は、何体か見てきたが、ファンタジーにいそうな魔物みたいな存在は未だに見たことはない。
しかし、代々フジミヤ家に伝わると言っていたが、やはりそんなものが一般の平民の家庭にある可能性は低いし、彼らはヨウ国では高い身分だったのだろう。
「一つ聞きたいことがあるのだが」
ここで私は彼らの出自について、思い切って尋ねてみることにした。
「何だ?」
「ヨウ国について調べ、ヨウ国の王家の姓がフジミヤという情報を得たのだが、君達と何か関係があるのか?」
「し、調べたのか?」
「……サマフォース帝国に、ヨウ国の情報が伝わっておったのだな……交易もほとんどしておらんはずだが」
リクヤとマイカの二人はだいぶ驚いていた。タカオは相変わらず我関せずという態度を貫いている。
「アンタらは悪い奴らじゃなさそうだし……喋っても良いか。俺はそのヨウ国を元々治めていたフジミヤ家の現当主だ」
あっさりと自身の正体を白状した。
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