第231話 事情
「リーツ。先程は機転を利かせてくれて助かった」
「そ、そんなお礼を言われるような事ではないですよ」
先程三人に仕事の斡旋の話をしてくれたことについてお礼を言ったら、リーツはだいぶ恐縮していた。
「ところでリーツは彼らの母国であるヨウ国、という国を知っているか?」
「……聞いたことはありますね。確か、サマフォース大陸から遠く南東に位置する島にある国だった気がします。どんな国かは詳しくは知りません。申し訳ありません」
「いや、謝ることではない。何か事情があったようだから、その事情さえわかれば、勧誘も上手くいくかもしれないと思った。少なくとも妹のマイカは、家臣になった方がいいと考えてたようでもあるし」
「そうですね……ロセルなら詳しく知っているかもしれません。彼の知識量はずば抜けていますので」
ロセルは記憶力が人並み外れて高い。その上、本を読みまくっているので、知識量に関しては、家臣たちの中で一番豊富だ。確かに彼に聞けば、何か知っているかもしれない。
私はロセルに話を聞きに行くため、彼がよくいる書物室へと向かった。
静かな書物室で、ロセルは何かを書いていた。
周りには様々な本が無造作に置かれている。
ロセルは本を読んで勉強をしたり、新しい道具や兵器のアイディアを出していたり、リーツと一緒に今後のカナレの政策を考えたり、結構色々やっている。今回はアイディアをまとめているようだった。
「ロセル、ちょっといいか?」
「あ、アルス。どうしたの?」
ロセルは集中力が高いので、私が部屋に入っても気付かず作業をしていたが、声をかけたら流石に気付いた。
「ちょっと話を聞きたくて……ロセルはヨウ国という国を知ってるか?」
「ヨウ国? 知ってるよ」
あっさりとそう返答した。
「サマフォース大陸の南東にある島国だよ。サマフォース帝国と一緒で、内乱が起こっているらしいんだよね。俺が読んだ書物はだいぶ前に書かれた物だから、もう治まっているかもしれないけど」
「内乱か……」
「うんうん。人種はサマフォース帝国にいる人たちとは結構違って……あと、内乱は頻繁に起こっているみたいだから、荒っぽい人たちが多いみたいだね。武術とか剣術とかも発達してて、大昔、まだサマフォース帝国ができる前の時代だね。その時にはヨウ国から渡ってきた傭兵団が、大暴れしたって記述もあるよ」
ロセルはそれからヨウ国についての知識をペラペラと話し始めた。
別に他国のことを専門に調べているわけではないのに、よくここまで説明できる物だと感心した。
「何でヨウ国について調べたかったの?」
一通りロセルは説明した後、私に質問をしてきた。
リクヤたちとのことについて、事情を説明する。
「へー、そんなことが。相変わらず変わった人を家臣にしようとするよね」
「優秀な人材なら家臣にするべきだと考えている」
「まあ、そうかもしんないけど。でも何で家臣になってくれないんだろうね。異国の人なら、仕事も見つけづらいし、家臣になった方が良さそうだけど……」
ロセルにも、リクヤたちが家臣になるのを断った理由は分からないようだ。
「あれ? さっき、フジミヤって言った?」
先程リクヤたちの名前も一緒に説明したのだが、ロセルはそこに引っかかりを覚えているようだった。
「フジミヤって、確かヨウ国の王族の姓だったはずだよ」
「王族?」
「うん、フジミヤ王家の権力が揺らいで、内乱が起きたって流れだった」
「じゃあ、もしかして彼らは内乱で負けて、サマフォース帝国に流れてきたとか?」
ロセルはだいぶ前の書物を読んでいたようなので、すでに内乱に決着がついていてもおかしくはない。
「……いや、姓が一緒なだけで王族の人と考えるのは早計だね。王族の姓ってことで、それにあやかって付ける人もいるから、フジミヤ姓の人は結構多いみたいだし。サマフォース帝国じゃ、皇帝家の姓を名乗るのは禁止されているから、ほかにはいないけどね」
「なるほど……」
確かに早まった考えではあったが……
ただ、鑑定して得た情報によると、三人はめちゃくちゃ兄弟姉妹が多い。それに、リクヤの母は死去しており、マイカとタカオの母は生きていることから、母親は間違いなく違う。一夫多妻の可能性があり、王族となるとそれも納得がいく。
それにリクヤが腰に佩いていた剣は、平民が持てるような剣には、ぱっと見では見えなかった。
王族じゃなくとも、ヨウ国では元々高貴な身分だったという可能性は確かに高いかもしれない。
「でも、王族だっていうなら、家臣にならないのも納得はいくかもね。今は負けて他国に流れ着いたとはいえ、かつて王族だった人が、誰かの家臣になるのは、気分的には良くないだろうし」
「でも、それを言うなら、労働者になる方が問題なんじゃないか?」
「それはどんな仕事をするかにもよるんじゃないかな。それに、仕事は辞めて独立もできるけど、家臣になったら簡単に抜けることはできないでしょ?」
貴族の家臣になると言うことは、忠誠を誓うということでもあるので、辞めたくなったら辞めていいような気軽な関係ではない。貴族によっては裏切りと見做し、処刑する場合もある。
まあ、一応私としてどうしても家臣を辞めたいと言うのなら、普通に辞めさせてあげるつもりだけど。少なくとも処刑するつもりはない。この戦乱の時代だと、ちょっと甘い考えかも知れないがな。
「まあ、その辺の考え方に関しては、当人たちにしか分からないことじゃないかな」
「それもそうだな……しかし、王族だということが理由で、家臣になることを断っているのだとすると、どう誘えば良いのだろうか?」
「…………うーん」
ロセルはだいぶ悩んでいる。
確かに出自を理由に断られては、どう説得すればいいのか簡単には方法は分からない。
「とりあえずもう一回会って話してみるしかないんじゃないかな? フジミヤさん達が本当に王族かどうかも、それで分かるだろうし」
「それもそうか……」
当然の結論をロセルは出した。
素直に王族だと言うかは分からないが、もう一度会って話をしてみないことには、進展はしないだろう。
リーツが機転を利かせてくれたおかげで、三人は明日カナレ城へと来る。
そこで話をすることは可能だろう。
明日、三人ともう一度話をしてみよう。
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