第229話 人材発見

 カナレの街、大通り。


 私はリーツと二人で街中を歩いていた。


 目的は人材の発掘だ。

 最近は募集して城まで来る者を採用していたが、たまにはこうして歩いて鑑定してみるのもいいかと思って街に出てみた。中には城まで来れない者もいるだろうしな。


 まあ、気晴らしに外出したいという理由もあったが。むしろそっちの理由の方が大きい気がする。


 リーツは護衛として同行している。


 サイツがちょっかいを出して来るかもしれないこの状況で、一人で出歩くわけにはいかないしな。


 護衛がリーツなのは、私が指名したからだ。

 最近忙しそうなので、カナレを歩くのが休暇の代わりになればいいと思ったからだった。


 ただ……私の護衛ということで、リーツはいつもより神経を尖らせている。

 これではいつもより疲れそうだ。

 逆効果だったかもしれない。


「リーツ、今は昼間で白昼堂々襲うやつもいないだろうから、もっと気楽にしていても良いんだぞ」

「気楽になんてそんな……アルス様を危険な目に遭わせられませんので。それに最近カナレには厄介な盗賊がいるようですし」


 盗賊の話は私の耳にも届いていた。

 高価な物を盗んだりするだけでなく、人を攫ったり、誰かを殺したりと、結構悪辣なことをする盗賊がカナレにいるらしい。

 結構な数の兵を動員して、捜索させているのだが、未だに捕まっていないようだ。暴れている割に、中々尻尾を出さないので、結構面倒な相手である。


 この前古城を占拠した野盗といい、カナレにも厄介な連中が増え始めた。

 人口が増えると、悪党の数も増えてしまうのは、どうしようもないことかもしれない。


 鑑定をしながら街の広場まで歩いたが、目ぼしい人材は見つからなかった。

 まあ、そう簡単に見つかるものではないしな。それこそ今日一日探し回っても、見つからないかもしれない。


「ん? 何やら珍しい格好をした人たちがいますね」


 リーツがそう呟いた。

 私も視線を動かして確認すると、広場の中央に三人の若い男女がいるのが見える。男二人、女一人である。


 確かにここらでは見ない格好だった。

 和服っぽい服を身につけていた。

 さらに前世の私に近い、日本人に近い顔立ちをしていた。


 中肉中背の男と、筋骨隆々の大柄な男、それから小柄で髪がボサボサの女の三人組だ。


「大陸の外から来た人ですかね? 何でカナレに?」


 リーツは少し警戒しているようだった。

 まあ、護衛として見知らぬ者達は警戒せざるを得ないか。


 私は、前世の自分が日本人だったということもあり、何となく親近感みたいなものを感じていた。


 まあ、流石に警戒心ゼロというわけではないが。

 元が日本人だったとはいえ、この世界に生まれてそこそこ経つので、そこまで平和ボケしてはいない。


 三人は広場の掲示板に貼られている、人材募集の貼り紙を見ていた。言葉は通じそうだな。文字が読めないなら、あんなに熱心には見ないだろうからな。


 もしかして仕える先を探しているのか?

 いや、掲示板にはローベント家、家臣募集の貼り紙以外にも、ほかの仕事の募集の貼り紙が貼ってあるので、家臣になりたいと思っているとは限らない。


 だが、カナレで仕事を探しているという可能性は高そうだ。

 異国の者は中々仕事もし辛いだろう。

 もし有能なら家臣にしたいところだし、鑑定しておくか。


 私は三人を鑑定することを決めた。

 最初は中肉中背の男から鑑定しよう。

 グレーの髪色で、顔立ちはそれなりに整っている。腰に剣を下げているのだが、その剣がやたら高そうだ。


 私は男をじっと見て、鑑定スキルを使用した。


 リクヤ・フジミヤ 18歳♂

 ・ステータス

 統率 60/75

 武勇 68/75

 知略 63/75

 政治 65/75

 野心 54

 ・適性

 歩兵 B

 騎兵 B

 弓兵 B

 魔法兵 D

 築城 B

 兵器 D

 水軍 B

 空軍 D

 計略 B


 帝国歴百九十四年六月二十日、ヨウ国テン都で誕生する。兄が八人。姉が五人。弟が一人。妹が一人。父親と母親はどちらも死去。兄八人、姉五人は死去。弟と妹は共に健在。真面目な性格。おにぎりが好物。趣味は特になし。優しい女性が好み。


 名前はリクヤ・フジミヤ……名前まで日本人っぽい。

 能力値は限界値が全部75と逆にレアな感じだ。

 特別際立った才能はないが、総合力では優秀と言って良いだろう。

 そして出身はヨウ国? 初めて聞く国だな。

 まあ、サマフォース大陸外の国について、私はそこまで詳しくないしそういう国もどっかにあるんだろう。

 あと兄と姉が多いが全員死んでる。

 両親もすでに亡くなっている。


 両親が亡くなることは、割とあることとはいえ、……兄と姉を合計十三人亡くしているのは、多すぎる。子供のまま死ぬことも、この世界では結構多いとはいえだ。

 そもそも流石に兄弟が多すぎるので、もしかしたら彼は特殊な家庭で生まれたのかもしれない。


 次に筋骨隆々の男を鑑定する。

 彼は坊主頭で背が非常に高い。顔は強面で近寄り難い雰囲気がある。


 タカオ・フジミヤ 16歳♂

 ・ステータス

 統率 44/79

 武勇 90/99

 知略 12/21

 政治 10/25

 野心 12

 ・適性

 歩兵 S

 騎兵 A

 弓兵 A

 魔法兵 D

 築城 D

 兵器 D

 水軍 D

 空軍 D

 計略 D


 帝国歴百九十六年四月一三日、ヨウ国テン都で誕生する。兄が九人。姉が六人。父親は死去と母親は健在。兄八人、姉五人は死去。兄一人と姉一人が健在。のんびりとした性格。肉が好物。趣味は食事、昼寝。背の高い女性が好み。


 何か凄い尖った能力値だな。

 だが、この武勇の数値は凄い。

 見た目もかなり強そうだが、見かけ倒しではないようだな。

 あと姓がこの男もフジミヤなのか。

 もしかしてリクヤとは兄弟なのか? あまり似ていないが……

 ただ、リクヤは母が死んでいて、タカオの方は生きている。まあ、それも腹違いの兄弟と考えれば矛盾はしないか。というか外見の似てなさを考慮すると、腹違いと言われた方がしっくりは来る。


 聞いてみれば分かる事か。

 最後に、女の子を鑑定しよう。

 ボサボサの黒髪少女だ。目つきが鋭く、背は小さいが妙な迫力を感じる。顔立ちは整っている。


 マイカ・フジミヤ 17歳♀

 ・ステータス

 統率 12/22

 武勇 9/15

 知略 90/99

 政治 71/91

 野心 34

 ・適性

 歩兵 D

 騎兵 D

 弓兵 D

 魔法兵 D

 築城 D

 兵器 A

 水軍 D

 空軍 D

 計略 S


 帝国歴百九十五年二月一日、ヨウ国テン都で誕生する。兄が九人。姉が五人。弟が一人。父親は死去と母親は健在。兄八人、姉五人は死去。兄一人と弟一人が健在。合理的な性格。甘い物が好物。趣味は遺物収集。頭のいい男が好み。


 名前はマイカか……

 凄い知略の高さ……逆に武勇は非常に低く、運動能力は高くはないだろう。統率も低いので、戦に出るのは難しそうだ。

 これまたタカオとは別方向で尖った能力値だな……

 あと、彼女も姓はフジミヤだ。三人は兄弟なのだろうか?

 女子にしても背が低く、体格も子供っぽいので、一番年下だと思っていたが、タカオより一歳上のようだ。

 失礼だが正直見た目は17歳には見えない。私と同じくらいの年齢に見える。


 特別抜きんでた能力はないが、総合力が高いリクヤ。

 武勇に優れたタカオ。

 知略に優れたマイカ。


 間違いなく優秀な人材だし、ぜひ家臣にしてみたい。


「あの、アルス様……あの三人が気になりますか?」


 リーツは私の様子を見て察したのか、そう尋ねてきた。

 もう付き合いも長いし、リーツには私の考えがある程度分かるのだろう。


「ああ、鑑定してみたが、中々優秀な人材だ。ぜひ家臣にしたいのだが……」

「見たところ職を探しているようなので、家臣にはできるかも知れませんが……」


 と話をしていると、


「おい、そこの子供!」


 向こうの方から声をかけてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る