第228話 報酬
ブラッハムに野盗退治の任務を与えてから、数日経過した。
今のところ、私にブラッハムの件で報告は来ていない。
正直、本当に任務を与えて大丈夫だったのか、少し不安になってきていたところだった。
確かにブラッハムの成長には、実戦での成功は必要不可欠だとは思うのだが、もし失敗して死んでしまったりしたら元も子もない。もっと安全な相手で試した方が良かったのでは?
今更悩んでも遅いし、ブラッハムを信じるしかないのは分かってはいるが……
色々ネガティブな事を考えていると、
「アルス様、リーツ様が報告があるとの事ですが、今お時間大丈夫でしょうか?」
と城の使用人がそう言ってきた。
もしかして野盗退治が終わったのか?
特に重要な仕事をしていたというわけではなかったので、私はリーツの待つ執務室へと直行した。
「アルス様、わざわざご足労いただき申し訳ありません」
執務室に入ると、リーツと野盗退治に行っていたはずのブラッハムの姿があった。
「構わない。それよりブラッハム、戻ってきていたのか」
「はい! 根城に住み着いた野盗どものリーダーを倒し、壊滅させることに成功しました! 自軍の死者はゼロで、負傷者は数名でましたが、命に別状はありません!」
と元気よくブラッハムは報告してきた。
「良くやった!」
心の底から出た言葉だった。
どうなるか不安だったので、成功したと聞いて安堵と喜びの感情が湧き溢れてきていた。
そして、咄嗟にブラッハムのステータスを鑑定してみると、統率が77まで上昇していた。
元々は68だったはずだ。
一度の野盗退治に成功しただけで、こんなに伸びるのか。
まあ、相手は元サイツの軍人で、さらに拠点が城だったので、本当の戦さながらな感じではあっただろう。
それを加味しても、かなり伸びたな。
伸び代が高いので、成長速度も早いのかもしれない。
もしかしたら、80台中盤くらいまでは、あっさりと成長するかもな。
そこまでのステータスがあれば、一流の武将と言っても過言ではない。
実戦を任せてみるというのは、間違った判断ではなかったようだ。
それからどんな戦だったのか、報告を受けた。
戦で一番活躍したのは、副隊長のザットだったようだ。
もしかしたら死んでたかもしれないと言われて、少しだけ肝を冷やした。ザットも優秀な人材だ。統率がそれほど高くないので、兵を率いるのは向いていないだろうが、ほかの能力は高いので補佐役には向いている。作戦の立案もザットが行ったようだ。
ブラッハムとザットの二人には、特別に報酬を出す事にした。
「今回は私の期待に良くぞ応えてくれた。ブラッハムとザットには、金貨を多めに報酬として授けよう」
「ええ! 俺もですか? 良いんですか?」
「ああ、お前も良く部隊を率いた。ザットを救出できたのもブラッハムが隊を率いたおかげだろう」
「あ、ありがとうございます!」
ブラッハムは感激した様子で頭を下げた。
「それで、えーと、あ、そうだ。忘れてました! 伝えなければならないことがあったんです!」
頭を上げると、何かを思い出したような表情を浮かべてそう言った。
今回壊滅させた野盗達のリーダー、名前をブイゴと言うらしいが、そいつは仕えていた貴族に解雇されて根城に来たらしい。
根城の在処は、その貴族が教えたという話だった。
「ふむ……確かにそれはサイツ側の策略の可能性はあるね」
ブラッハムから話を聞いたリーツは、少し考えてそう言った。
「やっぱそうなんですか?」
「確実にそうであると断言は出来ないけど、可能性としては結構高そうだね」
私も話を聞く限り、作為的なものがありそうだと思った。
ブイゴのために根城を教えたと言う可能性もあるが、普通はブイゴのためを思うなら、サイツ州内で仕事を斡旋するなり普通は他の方法を取るはずだろう。
わざわざカナレ郡にある古城の場所を知らせはしないはずだ。
「もしそうなら、サイツはまたカナレに攻めてこようとしているのか?」
私はリーツに質問した。
「そうですね……このように回りくどい方法を取ったと言うことは、今すぐ戦をするのは分が悪いと思っている証拠だと思います。今回の件を口実にミーシアンがサイツに攻め入るのは、確実な証拠もないので難しいですからね。それでもサイツはミーシアンと融和する気はなく、いずれは攻め落としたいと思っているので、嫌がらせをしてきたと思います」
「なるほど……それならすぐに攻め入ってくるということはなさそうだが……今回みたいな嫌がらせはこれからも何度かされそうと思っていいだろうな」
「はい。それに関しては警戒を強めるべきかと思います」
今回は大きな被害が出る前に簡単に野盗を排除できたが、場合によっては大損害を被っていた可能性もある。
次はどんな手を使ってくるか、正直予想は出来ないが用心しないといけないな。
「情報、感謝する。ザットにも代わりにお礼を言ってきてくれ」
「はい! まあ敵がどんなことを企んでいようとも、俺が何とかしますよ!」
「……ブラッハム……ちょっと調子に乗りすぎだ」
「あ、そ、そうですね。すみませんリーツ先生……」
手柄を上げて気が大きくなっているブラッハムを、リーツがたしなめる。
多少性格が変わったと言っても、根っ子の部分までは変わらないようだ。
とにかく今回は無事に乗り切れたことと、ブラッハムが成長したことは喜ばしいことだ。
今後も順調に成長して、リーツやミレーユを超えるくらいの武将になってくれればいいな。
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