第227話 討伐

「ところでザットはどうした?」


 突入したブラッハムは、ザットと一緒に根城に潜入した兵士に尋ねた。


「副隊長は、根城のリーダーのブイゴを討ち取りに行きました」

「どのくらい前に行ったんだ?」

「見張り兵を倒したらすぐに行きましたね。結構時間がかかってるようです」

「何だか嫌な予感がするな。よし、そのブイゴとやらがいる場所をまずは目指すぞ!」


 兵に号令を出した。

 ブイゴのいる場所は先に根城に潜入した兵たちが知っていたので、場所を先に聞いた後、ブラッハム達は根城の中へと突入した。

 流石にこれだけ大勢の兵が入り込めば、大きい音が立つので、それに気づき目覚めた野盗もいた。

 目覚めた野盗はブラッハム達の姿を確認した後、かなり驚いたような表情を浮かべて逃げ出した。

 数が多すぎて一人では勝てないと思い、リーダーに報告しに行こうとしているのだろう。


「逃すな! 狙撃しろ!」


 すかさずブラッハムは、弓を持っている兵に狙撃を命じた。

 精鋭部隊には、剣や槍の扱いが上手い者だけでなく、弓の名手もいる。

 急いで弓を構え野盗に向かって撃った。

 後頭部に突き刺さり、野盗は即死した。


「よし、良くやった」


 ブラッハム達は城の中をどんどん移動する。

 ブラッハム達の突入が野盗達に気づかれるのを少しでも遅くするため、起きて来た野盗達はきちんと討ち取りつつ、進んでいった。


 弓兵の調子は非常に良く、一撃も撃ち漏すことはなかった。

 そのまま順調に根城の中を進んでいき、ブイゴ達の部屋の前に到着した。


「しつこい野郎だなぁ! 苦しませず殺してやっから今すぐ諦めろ! このまま続けても無駄に痛いだけだぜ!」


 部屋の中からそんな声が聞こえてきた。

 その後、剣戟の音が響き渡ってくる。

 どうやら中で戦っているようだ。

 ザットとの戦闘に気を取られ、ブイゴはブラッハムの侵入に全く気がついていないようである。


 ブラッハムは勢いよく扉を開いた。


 戦闘により傷を負っているザットと野盗たちの姿が目に入る。


 野盗たちは、ブラッハムと背後にいる兵士たちの姿を見て、惚けたような表情を浮かべていた。

 状況が全く理解できていないようである。


「はぁああああ!」


 ブラッハムは持っていた槍で、ブイゴの心臓を突いた。

 突然の出来事で全く反応できなかったブイゴは、避けられず一瞬で心臓を貫かれる。


「な、ガハッ……」


 状況を正確に理解できないまま、血を吐いて床に倒れ込んだ。


 その後、ブラッハムの後ろから兵士たちが次々と部屋に突入し、ほかの野盗たちを次々と討ち取っていった。


「大丈夫かザット!」


 ブラッハムが、傷だらけのザットの近くに心配しながら駆け寄る。


「大丈夫です。傷は浅いですから」


 平気そうな表情でザットはそう言った。

 その言葉通り、一つ一つの傷は浅かった。

 上手く攻撃を躱しながら、凌いでいたのだろう。

 とはいえ、体の至る所に傷を負っているので、結構な量の血を流している。無事というわけではなさそうだった。


「全く無茶しやがって!」

「この程度無茶ではないです。それより、敵のリーダーのブイゴを倒したので、これで戦は楽に進められます。野盗どもに逃げられると厄介ですし、早いとこ戦を再開しましょう」

「ああ、お前が引きつけてくれたおかげで楽に倒せたぞ! よし、残りの野盗たちを始末するぞ!」


 ブラッハムは兵たちに号令を出し、根城にいる残りの野盗たちとの戦いが始まった。


 戦いと言っても、やはりブイゴの存在なしでは夜襲には対応できず、まともな抵抗もないまま、ブラッハムたちの優位に進んでいった。


「お前らに勝ち目はないぞ! 降参すれば命は助けてやる!」 


 終盤野盗たちの数が大きく減って、勝利はほぼ確定という時、そう勧告した。

 追い込み過ぎれば、逆に激しく抵抗され、思わぬ被害を受けることもあるので、最後はこうやって投降を促したほうがいいだろうと、ブラッハムは判断した。


 普通の戦なら、命尽きるまで主君や守るべき土地のために戦う者たちもいるのだが、野盗たちにそこまでの根気はない。


 あっさりと武器を捨て投降していった。


 根城に住み着いた野盗たちは、一夜にして壊滅した。





 ブラッハムたちは投降した野盗たちを捕縛し、カナレ城へと帰還していた。


「隊長、今回は助けてくれてありがとうございました。間一髪でしたよ」


 ザットは傷の応急処置を受け、身体中に包帯を巻いていた。

 だが、苦しそうにはしておらず、平然とした様子だった。


「部下を助けに行くのは、隊長として当然のことだからな! とにかく今回は勝てて良かった!」


 ブラッハムは嬉しそうな表情でそう言った。


「しかし、今回は特別報酬貰えますかね……?」

「さあ……てか、お前はそれが目的でブイゴを倒しに行ったのか?」

「聞き捨てならないことを言いますね。もちろん、戦いを楽にして隊に被害が出ないようにするためですよ。報酬はあくまで、貰えたら良いなぁという感じです」

「本当か……?」

「本当です」


 真顔でザットは言い張るが、ブラッハムは本当なのかいまいち信用できなかった。


「お前が活躍したのは事実だし、きちんとリーツ先生や郡長には報告しておこう」

「ありがとうございます」


 ザットは澄ました表情でお礼を言った。


「あ、そうだ。一つ気になる情報があったので、これもリーツ様に伝えておいてください」

「何だ?」

「どうやら、今回の野盗のブイゴは、元々サイツ軍にいたようですが、そこを解雇されたようで、その際、ブイゴを雇っていた貴族が、根城の事を教え、それで根城を拠点にしたようです」

「はぁ……その貴族は解雇した家臣の今後のことも考える、良いやつなんだな」

「えーと……良いやつだってだけならそれで良いんですが……サイツはちょっと前まで我々と戦をしていたんですよ? 何か作為的なものを感じませんか?」

「むう……? つまり、ブイゴをカナレの根城に住まわせ、野盗として活動させて、被害を与えるつもりで、そのサイツの貴族は根城の場所を教えたと?」

「その可能性はあります」

「なるほど……考えすぎかもしれないが……仮にその通りなら、サイツはまたカナレに攻めてくる気満々ということなんだな」

「ええ、リーツ様達がどうお考えになるかはわかりませんが、一応報告しておくべきです」

「そうだな。分かった。報告しよう」


 ブラッハムは頷いた。



 それから、ブラッハムたちはカナレに帰還。


 捕縛した野盗たちは一度牢屋に入れられる事に。

 これからカナレの規則に則って処罰が下される。

 大人しく投降した野盗たちなので、死罪にはならない可能性が高いが、しばらくの間、労働力としてこき使われる事になるだろう。


 ブラッハムは、カナレ城の執務室へ向かい、リーツに野盗討伐について全て報告をした。


「被害はほぼゼロで討伐したのか……」


 とリーツは驚いたような表情を見せる。


「アルス様がお前に討伐を任せた時は、心配で仕方なかったが、本当に成長したんだな。良くやった」

「は、はい!」


 リーツは、アルス以外には結構厳しい面も多く、あまり他人を手放しに誉めたりはしないのだが、今回は素直にブラッハムを賞賛した。

 ブラッハムは嬉しくて、ほほを緩ませる。


「特別報酬についてもアルス様に進言しておこう。今回は本当に良くやった」

「はい! これからも頑張ります!」


 ブラッハムは元気に返事をして、執務室を後にした。

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