第226話 失敗
ブラッハムは根城付近の森の中で、野盗に見つからないように陣を敷いていた。
「副隊長達は無事潜入できたようです」
根城の様子を隠れて観察していた斥候兵がそう報告をしてきた。
「よし、あとは夜になって、根城の様子を見て、見張りが制圧できたのを確認したら、出撃するぞ」
「了解です。再び根城の様子を観察してきます」
見張りの制圧が出来た後、斥候に知らせる合図を送るようになっていた。
もし、野盗たちに動きを気取られて、騒ぎを起こしてしまった場合は、すぐに逃げろとも命令を送っていた。失敗した場合は、また別の作戦を考えて攻めるつもりだった。
数時間経過し、日が暮れすっかり夜になった。
兵士たちはいつでも出陣できるよう、戦闘準備を終えていた。
根城の観察をしていた斥候兵が再び陣に戻ってくる。
「合図確認しました」
「よし! 今すぐ出陣するぞ!」
ブラッハムは号令を出して、根城に向かって精鋭部隊は出陣した。
バレないよう音を立てないように、それでいて素早く移動を行う。
そして根城付近に到着する。
ブラッハムたちが近づくと根城の門がゆっくりと開いた。
「よし、突入するぞ!」
ブラッハムは、兵を引き連れて城へと突入した。
○
ザットは見張りの兵をあっさりと討ち取った後、ブラッハムたちが来るのを待つ間、どうするか考えていた。
(ここの野盗ども思ったより隙が多い。守りが固い拠点を手に入れたことで、少し気が緩んでいるのだろうな。とは言っても、外部から来たやつをすぐに拠点内で動き回れるようにするのは、不用心ではあるが)
搦手で城を落とそうとしてくること自体、想定していないようだ。
(これだけ隙があるなら、ブイゴの暗殺を試みても良いかもしれないな。夜襲が成功すれば、勝ちは出来るだろうが、思ったより抵抗されて、自軍に被害が思ったより出るかもしれないしな。それなりに強そうではあったが、寝込みを襲えば大丈夫だろう)
ザットはそう考え、一緒に根城に潜入した兵士たちに、暗殺を行う事を伝え、すぐに行動に移した。
見張り台を降りて、城の中へと入る。
ブイゴは、最初に会った部屋で寝ている。足音を殺しながら移動し、部屋に向う。
誰にも見つかることなく、ブイゴの部屋の前に到着した。
部屋には扉がある。鍵などはかかっていない。
不用心だと思いながら、ザットはゆっくりと扉を開き、部屋の中へと侵入した。
ベッドにブイゴがいる、と思いきや誰もいない。
ふと背後に気配を感じ、慌てて後ろを確認する。
斧を振りかざしている何者かの姿が。
そのまま斧はザットに向かって振り下ろされる。
後ろに避けて、間一髪でザットは斧を回避した。
突然のことでザットは動揺し、心臓の鼓動が速くなる。
だが取り乱したりはしなかった。
経験豊富なザットはすぐに冷静さを取り戻す。
「ほう、良い反応じゃねーか。今のを避けるか」
目の前の斧を振り下ろしてきた男、野盗のリーダーブイゴがそう言った。
「お前、俺の首を狙いに来た賞金稼ぎだろ? そういうのは鼻が利く方なんだ」
その言葉を聞き、ザットは最悪な状況には陥っていないと判断した。
ザットがカナレ軍の兵士ではなく、賞金稼ぎであると、ブイゴは誤解しているようだ。
それならば、カナレ軍が攻め込んでくるということに気づいてはいないはずだ。夜襲が失敗に終わるということはないだろう。
「俺の正体に気づいていたのに、なぜ城の中に引き入れた?」
話を合わせてザットは会話を続行する。
「こうやって油断したふりをして、ハメ殺すのが一番簡単なんだよ。今回は一撃目は避けられちまったがな。俺を狙ってる賞金稼ぎは早めに殺っとかないと、後々面倒なことになる。お前の仲間たちは、俺の手下がこの部屋に入ってこないよう外で見張りでもしてるのか?」
「お前に言う必要はない」
ザットはブイゴを睨みながらそう言った。
部下の兵士達は、現在見張り台でブラッハムの到着を待っているはずだ。
「まあいいか。お前が多分賞金稼ぎどもの中のリーダーなんだろ? まずはてめーを殺して、ほかの奴はあとで殺す。おい、お前ら、出てこい」
ブイゴがそう言うと、部屋にある物陰から野盗達が出てきた。
目だけ動かしてザットは数を確認する。
出て来た野盗は全部で五人。ブイゴを合わせると、六人だ。
「お前は強いらしいけど、流石にこの人数相手にすんのはきついだろ?」
「……」
ザットは黙って剣を構えた。
(今まで何度か窮地に追い込まれたことはあったが、ここまでピンチになるのは初めてだ……)
自分がもうすぐ死ぬかもしれないという時だが、ザットの頭は冴えてきた。この冷静さがあったから、彼は今まで生き残ってこれた。
(俺一人で勝利は流石に難しい。だが、時間稼ぎは出来る。隊長が来るまで持ち堪えていれば、倒してくれるだろう。隊長を当てにするのは何となく嫌ではあるが……
昔の隊長ではなく今の隊長なら大丈夫だろう)
ザットはブラッハムが来てくれると信じ、ブイゴ達との戦いを開始した。
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