第224話 策

 数日後。

 野盗の根城の調査に向かわせた斥候たちが、帰還してきた。


 根城は元サイツ軍の兵士の手により、少しだけ改修されていた。


 敵の数も想定より多い。サイツの兵だけでなく、元々カナレにいたゴロツキや、傭兵崩れなども巻き込んで、どんどん大所帯になっていったようである。

 装備に関しては、元サイツ軍の傭兵はそれなりに良い装備をしているが、あとから入ってきた者はあまり上質な鎧や武器を持っていないようだ。

 また、魔法兵に関しては確認されていない。

 魔法兵がいると、流石にブラッハムの隊だけでは対処できなくなるので、増援が必要になる。


「良く調べて来てくれた! ……しかし、思ったより敵が多いな……」


 ブラッハムは報告を聞き、率直にそう思った。


「これは援軍を要請した方がいいんじゃないですか?」


 副隊長のザットがそう進言した。


「ふむ……」


 ブラッハムはどうするか考える。

 実際、戦力的に倒せないのなら援軍の要請は必須だ。

 しかし、ブラッハムは難敵ではあるが、倒せないというわけではないと考えていた。


「思ったより強そうだが、倒せないほどの敵ではないだろ。魔法を使ってくるわけじゃないしな。今回の任務は俺に任されたのに、ほかの隊の手を煩わせるわけにはいかない」

「しかし、失敗は許されない任務なわけでして」

「援軍にはそれだけ金や兵糧が必要になる。それに、準備に時間がかかって、討伐までかかる時間も増えてしまうだろ。この規模の野盗を長く放っておくわけにはいかない」

「それはそうですが……」

「倒せないほどの規模なら援軍もやむなしだが、そこまでじゃない。これで倒せそうにないからって援軍なんて呼んでたら、郡長の期待を裏切ることになっちまう」


 ブラッハムのその言葉に、ザットは反論しなかった。

 彼にとっても、精鋭部隊の評価が下がってしまう事は避けたい事であった。場合によっては副隊長をやめさせられる可能性もある。そうなると出世の道は閉ざされたも同然だ。


「分かりました。ちょっと弱気過ぎたみたいですね」


 ザットは戦う事に賛成した。


「しかし、隊長、今日はいつになく頭が回りますね」

「ば、馬鹿にしてんのか!? 俺は今までとはもう違うんだ!」


 ザットの軽口に、ブラッハムが怒りながら言い返す。


「今回は無策で突撃する気はないぞ! 何らかの策を立てて行く!」

「策ですか……具体的には……」

「それは…………今からみんなで考えるぞ!」

「まあ、そこまで急に成長は出来ませんよね……」


 とはいえ、このまま無策に戦おうとしないだけ、だいぶ成長したな、とザットは思った。


「この野盗どもは、新しい人員を増やして勢力を拡大させてますよね。かなりのスピードで人員を増やしているようなので、恐らく流れてきた者を片っ端から仲間にしていると推測します」

「多分そうだろうな。そうじゃないと、もっと数は少ないだろうし」


 ザットの言葉に、ブラッハムが頷きながら返答する。


「流れてきた者の素性など野盗なのでまともに確認したりもしていないでしょう。つまりは簡単に潜入することが出来るというわけです」

「……なるほど! 味方を敵に潜り込ませれば、戦いを有利にすることが出来るな! それで行こう!」


 ザットの意見を速攻で採用しようとするブラッハム。


「いや、あの、自分で言い出しておいて何ですが、潜入する兵はやはり危険だし、結構難易度は高いので、この作戦をするにしても、もっと考えて決めた方が」

「む……確かに、敵陣に潜り込むのは危険ではあるな。いざという時は、逃げられるくらい戦闘力があるやつが行くのが、いいか……よし、なら俺自ら潜入するぞ!」

「はぁ!?」


 突拍子もない提案に、ザットは驚く。


「この隊の中では俺が最も戦闘力が高いし、もし危険な目に遭っても、無事に帰って来れる可能性は一番高いはずだ!」

「いやいや、隊長がやるような任務じゃないですよこれは。あと、無事に帰ってくる確率は確かに隊長は高いと思いますが、本来は任務を成功させる確率が高い者を抜擢すべきです」

「俺では成功させられないというのか?」

「はい。目立たずに潜入するとか一番無理でしょ」

「う……」


 ブラッハムに反論は出来なかった。


「ここは私が行きます」


 ザットがそう言った。


「何? いや、ザットは副隊長だし、隊にいた方が」

「隊長ながら行こうとした人が言うセリフですか。副隊長の私はいなくても何とかなるでしょう。こう見えても、昔から色々経験しているので、野盗に潜り込むことは得意なんですよ」

「でも危険だぞ」

「危険は承知の上です。私なら逃げ切れる確率も高いですからね。それに、この手の危険な任務を成功させれば、特別報酬を郡長から貰えるかもしれませんし」

「そ、それが狙いか……」

「ええ」


 ザットは少しニヤつきながら頷いた。


「分かった。お前に任せる」

「任されました。あと、一人でやるのは難しいので、何人か選抜して一緒に潜入したいと思うんですが、いいですか?」

「大丈夫だ」


 ブラッハムは頷く。


 その後、ザットは一緒に潜入するメンバーを選び、潜入任務を開始した。




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