第223話 任命
野盗退治をブラッハムに任せることが決定した後、会議は滞りなく進む。
今のところ野盗以外に大きな問題は発生していないようだ。
会議を終え、休憩するため自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、
「何で俺を野盗退治に抜擢したんですか?」
と声をかけられた。
振り向くとブラッハムが立っていた。
「お前なら出来ると思ったからだ」
「それがおかしいです! 最近勉強して気づいたんですが、今までの俺の戦い方はめちゃくちゃもいいところだ。大したことない野盗ならそれでも大丈夫だけど、今回は面倒な野盗なんでしょ? 俺が勝てるかどうか……」
その言葉を聞いて、ブラッハムの態度が変わった理由が分かった。
勉強することで、今までの自分の未熟さを知り、自信を失っていたんだな。
それでも、今回は最後引き受けるとブラッハムは言った。
成長したいとは自分でも思っているのだろう。
ここは何とか言葉で元気づけてやらないと。
私はそう思い、ブラッハムに声をかけた。
「そうやって過去を振り返って反省できているのは、成長してる証だぞ。確かに今までのブラッハムには、怖くて任せられなかっただろうが、今のお前なら出来るはずだ」
「……しかし」
「戦術の勉強もしっかりとしてるんだろ?」
「勉強はしたし、結構覚えもしましたが、実戦で使えるかが……」
「使えるさ。ブラッハムに兵を指揮する才能があるということは私が保証する」
「……」
「副隊長ザットも能力は高い。困った時には協力すればきっと大丈夫だ。お前に預けている兵は、カナレ郡の中でも選りすぐりの精鋭たちだからな」
私がそういうと、ブラッハムはしばらく口を開かず黙っていた。
そして、私の目を見て、
「分かりました! 俺、やってみせます!」
迷いが吹っ切れたような表情でそう言ったあと、駆け足で城を出て行った。
どうやら、心配する必要はなさそうだな。
○
「郡長様から、野盗討伐の任を命じられた! これからブラッハム隊は、その任務を達成するため全力を尽くす!」
野盗退治を命じられたあと、すぐにブラッハムは精鋭部隊の兵士たちを集めた。
「野盗ですか?」
「なら楽勝ですかね?」
あまり兵士たちに緊張感はない。
領内で悪さをしている野盗退治は、ブラッハムの率いる部隊も何度か行っている。基本的に力量、装備などに大きな差があるので、苦戦することは滅多になかった。
「今回の野盗は簡単な相手じゃないぞ! 元サイツ軍の兵士で数も多い! 気を引き締めろ!」
ブラッハムの言葉を聞き、兵士たちは少しだけ気を引き締める。
「敵が拠点としているのは、カナレ郡の北西だ。そこには今は使われてない古城があるんだが、そこを根城にしているらしい」
「昔のとはいえ城を使っているんですか。それで数も多いとなると確かに面倒そうではありますね」
「そうだ。最初に……敵がどういう状況か調べるため、斥候を派遣する」
ブラッハムがそう言った瞬間、兵士たちが驚いたような表情を浮かべる。
情報を得るのは基礎中の基礎だが、今までのブラッハムは情報収集はあまりせず、勢いで攻めていくことが多かった。
最近勉強熱心になったのは、兵士たちも知ってはいたが、そんな簡単には変わらないだろうと思っていた者がほとんどであった。
ブラッハムは斥候に向いている者たちを数名選抜し、野盗の根城の調査に向かわせた。
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