第217話 勉強会
傭兵団バングルを無事採用した。
ほかにもいくつか、傭兵団は来たのだが、採用までしようと思うところは少なく、結局採用したのはバングルだけだった。
傭兵団バングルは、カナレ郡の西側サイツ州の近くに配属することにした。
サイツ州はまだ大人しいが、そろそろちょっかいを出してくるかもしれない。警戒は強めておいたほうがいい。
それに州境付近の治安が悪化し始めている、という理由もある。
戦争で敗色が濃厚になると、兵士たちの士気が下がり始め、やがて脱走するものも出始める。脱走兵達は、場合によっては野盗になる。
元々大軍だったサイツは、脱走した兵の数もかなり多いので、野盗の数が非常に多くなった。
サイツとの州境にあるカナレ郡にも、野盗が流れてきていた。
治安の維持のためにも、傭兵団バングルは西側に置いたほうが都合が良かった。
きちんと戦功を上げてくれることを期待しておこう。
○
それから数週間経過。
傭兵団バングルは早速、野盗退治で戦功を挙げたらしい。
この数週間、人材発掘をしており、魔法に長けた人材を、運良く10人発掘出来た。
馬適性が高い者も中には二人いた。まだまだ、魔法騎馬隊の編成は遠いが、一歩一歩近づいてはきている。
さらに近接戦闘に長けたものを12人発掘。
ブラッハムの精鋭兵部隊に配属した。
この部隊は、ブラッハムのポテンシャルの高さを見ると、もしかしたらミーシアン州全体でも、指折りの強力な部隊になる可能性を秘めている。
まだまだ、隊長の力量が足りていないのだが。
とにかく短期間で結構な傭兵を雇ったり、人材をたくさん獲得したりしたので、しばらく人材発掘は休止することにした。
一気に増え過ぎても、財政的にもあまり良くない。
新しく入った人材を育成する必要もあるので、数が多すぎると、育成の効率も悪くなる。
まだまだ必要な人材は多い。
休むとして一、二ヶ月程度になると思うが、ここで小休止することに決めた。
ただ、鑑定をしないとなると、私のやることはかなり少なくなる。
領地の運営などは、家臣たちにだいぶ任せている。今更手伝うと言っても、足を引っ張りかねない。
とはいえ、何もせずのんびりしているわけにはいかない。
何をするか考えた末、私はこの世界についての勉強を再びしてみようと思った。
勉強は幼い頃からやってはいたが、最近疎かになっていた。
家臣たちには知識が豊富な者も多い。今更私が知識を詰め込んでもそれほど大きな意味はないかもしれないが、やはり領主として無知すぎるのは良くない。
勉強に関しては今まではリーツが教えてくれていた。
ただ、流石に忙しくなったリーツにそれは頼めない。
ロセルも自分の勉強や研究などで忙しそうだ。時間を取らせるわけにはいかない。
一人で勉強してもいいが……誰かに教えてもらいながら勉強した方が、捗るのは間違いない。
まあ、でもほかに思いつかないし、一人でやるか。
私はそう決めて、書物室で一人で勉強することに決めた。
〇
「今日は鑑定はお休みになって、勉強をなさるんですよね」
朝、部屋を出る前、リシアがそう質問してきた。
「ああ、領主として遊んでいるわけにいかないからな」
私は頷いてそう返答した。
「良ければ私もご一緒したいです。わたくしも、領主の妻として、もっと色々学ばなければいけませんし」
リシアはやる気に満ちた表情でそう言った。
彼女と一緒に勉強できるのは、私としても嬉しい。特に断る理由もなかったので、
「分かった。私もリシアと一緒に勉強できるのは嬉しいし」
と返答した。
それから二人で書物室へと向かう。
その道中。
「あ、アルス様とリシア様、おはようございます! 今日はいい天気ですねぇ。こんないい天気は外で運動でもしたい気分ですが、生憎今日は書類の整理などをしなければならず残念です!」
おしゃべりな男、ヴァージと出くわした。
「そ、そうか。頑張ってくれ」
「そう言えば、鑑定は今日はお休みするんでしたね。今日お二人は何をなされるのですか?」
「書物室で勉強でもするつもりだ」
「へぇ、感心ですね! あ、そうだ! お勉強されるなら、講義室に行ってみるといいですよ! 最近、トーマスさんが勉強会を開いているらしくて、ためになるお話が聞けるかもしれませんよ。ちょうど今くらいの時間にやってたはずです」
「トーマスが?」
「はい! 知識量を増やすのも訓練の一環ですからね! まあでも、勉強会に参加しているのは全員じゃなくて、兵を率いる立場にある人たちだけみたいですけど。アルス様たちなら参加を断られることはないと思います」
初めて聞いたが、確かに単純な戦闘力を磨くだけでなく、勉強するのも重要ではあるだろう。
どんなことを教えているかは分からないが、トーマスは頭もいいので色んなことを知っていそうだ。
とにかく一度行ってみるか。
私はリシアを見る。彼女は軽く頷いた。リシアも行ってみたいと思ったようだ。
「教えてくれてありがとう。早速行ってみる」
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