第211話 人材発見
トーマスが試しにとはいえ、家臣になることになった。
もちろん家臣になったからには、何らかの仕事を任せたい。
能力が高いので、ある程度重要な仕事をして欲しくはあるけど、いきなり任せるのも流石に問題があるだろう。
しばらくは姉のミレーユの指示に従って、ランベルクの運営をやって貰うべきか。
私はそう思い、提案してみると、
「こいつの指示に従って働くのはごめんだ」
と明らかに嫌悪感を示した。
「生意気だね。でも、ランベルクの領地運営は、カナレに比べるとやることは少ないし、別の役割を与えた方がいいと思うよ」
ミレーユがそうアドバイスをしてきた。
最終的にリーツらとも話し合った結果、トーマスには、カナレの兵の訓練を任せることになった。
ベルツドで戦を行った時、彼の率いる軍は間違いなく精鋭揃いだった。
きちんと訓練を行っていた証拠だろう。
リーツに訓練をある程度任せているのだが、トーマスがやってくれればリーツの負担も減るし、メリットが多い。
トーマスの役割はすんなりと決まった。
彼ならきちんと遂行してくれるだろう。
あとは、私が領主としての器を見せることが出来るかだが……具体的な方法はどうすればいいかなんて分からないので、今まで通りやるしかないだろう。
○
翌日。
トーマスを家臣にしたからと言って、人材発掘を怠るわけにはいかない。
最近、徐々に景気が良くなってきたためか、税収がアップしてきた。
民の不満を無くすため、税率を若干下げたりもした上で、税収が上がったので、それだけ取引が活発になってきた証だろう。
たまに外を歩いたりしていると、やはり以前に比べて市場に活気が増しているような気がする。
税収が上がったので、それだけ雇える人材の数も増える。
どんどん探していかないといけない。
いつもと同じように、人材との面談を始めた。
中々優秀な人材は今日も見つからない。
ただ、魔法適性Bで騎馬適性もBの男が二人いたので、その二人は取ることにした。
武勇がそこそこ高く、ほかのステータスは低かった。単純なステータスでは、採用基準に達してはいないのだが、適性を見る限りでは魔法騎馬兵として活躍できそうな人材である。
面談も進んでいき、最後の一人になった。
今まで採用しようと思ったのは、魔法騎馬兵候補の二人だけ。
最後の一人は女性だった。
前髪がやけに長く、目元が隠れている。
年齢は恐らく二十代前半から、十代後半。
体格は平均的。
地味な灰色の服を身につけている。
俯いており顔を上げていない。
緊張しているように見える。
「ようこそカナレ城へ。私が城主のアルス・ローベントである」
「……」
小さく口を動かしたようには見えたが、声は聞こえなかった。
ものすごく声が小さい。
ちょっとしたやり取りで、あまり明るい性格の子じゃないだろうというのは、すぐに予想がついた。
そもそも、本当に家臣になる気があるかも分からない。
誰かに命じられて、無理矢理きた可能性もありそうだ。
とりあえず私は鑑定をした。
エナン・リュージェス 21歳 ♀
・ステータス
統率 2/22
武勇 12/21
知略 56/80
政治 4/66
野心 0
・適性
歩兵 D
騎兵 D
弓兵 D
魔法兵 D
築城 B
兵器 S
水軍 B
空軍 B
計略 C
現在値のステータスは非常に低いが……限界値はそれなりに高い。
そして兵器適性が最高のSである。
育てればかなり優秀な人材になりそうだ。
シンの飛行船の開発に参加してもらえれば、開発速度が上がるかもしれないし、有用な魔法兵器の開発にも力になってくれるかもしれない。
出身地はミーシアンで、両親は存命、兄が二人と特に不審な点はなさそうだった。
ぜひ採用したい人材だったが、話をするとちょっと問題がありそうだった。
話をしたと言ったが、そもそも声が小さすぎて、私の耳まで届いてこないのである。会話が成立しない。大きな声を出すようにいうと、顔を赤らめて俯いてしまう。
典型的なコミュ障……これは仮に鑑定スキルなしで面接官をしていたら、間違いなく不合格にする人材である。
というか、鑑定スキルで潜在能力がわかった上でも、彼女を覚醒させられるか疑問だ。
……まあ、彼女のような人材を発掘し育てることこそ、鑑定スキルの1番の役割だし、採用してみよう。
彼女は採用すると決めて、その日の面談は終了した。
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