第210話 トーマスと面会

 ミレーユがアルカンテスに行っている間、私は人材発掘を何度か行った。

 現在、執務室で人材の能力値を書き記した書類を確認していた。


「アルス様、今回は採用基準を満たしている人材はいたでしょうか?」


 リーツがそう尋ねてきたが、私は首を横に振る。


「いや、今回もいなかったな……いくら鑑定できたとしても、いい人材が来てくれるかどうかは、運でしかないし……根気よく探し続けるしかないな」

「ですね……ミレーユが、弟の勧誘を成功させてくれれば大きいのですが……」

「正直、あまり期待はしていなくてな……いくら弟とはいえ、人を勧誘したりするのに、ミレーユが向いているとは思えなくてな……」

「それは同感です」


 私の意見にリーツは同意した。


「ところで、リーツの下に付けた、ヴァージはどうだ? 人材として使えそうか?」

「はい。中々頭の良い男ですし、気が利くので結構助けられています。少々喋りすぎなところはありますが、それも長所の一つでしょう。今も、町民から上がってた苦情への対応や、外部から来た商人との取引などを任せています」


 ヴァージがリーツの助けになっていると聞いて、少し安心した。反りが合わなかったりしたら、逆に足を引っ張ることになりそうだとも思っていた。


「僕としては仕事が少なくなって、若干物足りなさも感じていますが……」


 とリーツはそう言った。

 仕事が減って物足りなさを感じるって……リーツは仕事中毒に片足突っ込んでいるかもしれない。


「アルス様、よろしいでしょうか」


 執務室の扉の向こうから、そう声がかかった。

 城の使用人の声である。私は入って良いと許可を出した。


「ミレーユ様がお越しになりました。今、お時間大丈夫でしょうか?」


 アルカンテスに行っていたミレーユが、ちょうど戻ってきたようだ。

 トーマスを連れて来てくれたのだろうか。


「時間は大丈夫だ。連れて来てくれ」

「かしこまりました」


 そう指示を出した。


 数分後、ミレーユが執務室にやってきた。


「ただいまー」


 陽気な様子で入ってきた。

 これは成功したのだろうか?


「どうだった?」

「ん? 連れてきたよ。入って」


 とミレーユが促すと、大男が執務室の中に入ってきた。


 間違いない。

 以前、トーマスを捕らえてスターツ城に連れて行ったときに見たから、トーマスの風貌は覚えていた。

 一応鑑定もしてみた。

 あの時見た、ハイスペックなステータスが表示された。


「よく来てくれた。私がカナレ郡の郡長、アルス・ローベントだ」

「……そうか、あの時の子供」


 トーマスは私を見てそう言った。


 最初に会った時、見られたりした覚えはないのだが、彼も私の存在を一応認識していたようだ。


「来てくれたという事は、私の家臣になるつもりで来たと思っていいか?」


 トーマスは首を横に振った。

 あれ? 家臣になる気はないのか?


「今の時点でアンタに忠誠を誓う事は出来ねぇ。だが、しばらくはこの領地のために働いてやる。アンタが仕えるに値しない領主なら、すぐにここを去る。当然、アンタが俺を無能だと思ったのなら、すぐに首を切って貰っても構わん」


 試用期間というわけか。

 ミレーユから私の鑑定スキルなど話は色々聞いているだろうが、それでもトーマスからしたら、今の私はただの子供に見えるだろう。


 認められるかは分からないが、一歩前進したのは間違いない。


「分かった。あなたに認められるよう領主として尽力しよう」

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