第207話 休暇

 目を休めるため今日は休暇を取った。

 家族と食事を取ったあと、


「兄上兄上! 剣の稽古をしよう!」

「駄目! 今日は一緒に本を読むの!」


 弟のクライツと妹のレンに、迫られていた。

 二人は七歳になり、少し成長はしたがまだまだ子供である。

 双子なのに性格が一致しないので、相変わらず二人がやりたいことが噛み合っていない。


 しかし、毎回休暇になると、似たようなやりとりをしているなと、私は少し笑ってしまった。


 大体いつもは、私がどっちもやると言う事で、事が収まるのだが、


「分かった。じゃあ、レンちゃんはわたくしと一緒に本を読みましょうか」


 今日は隣にいたリシアが笑顔でそう提案した。

 子供と遊ぶのは結構大変である。

 少しでも負担を軽減しようと、リシアの気遣いだろう。


「姉上! それはいい提案だ!」


 クライツは元気な声でそう言った。


 クライツは、リシアのことを姉上と慕っているのだが……


「やだ」


 レンはプイッと顔を背けた。


「私、この人嫌い」


 直球で嫌いとレンは発言し、リシアの表情が凍りつく。


 結婚後、気になっていたのだが、どうもクライツはリシアを慕っているようなのだが、レンはなぜかリシアを嫌っているようである。


 リシアが何か嫌われるような真似をしたという事はないと思うので、なぜか不思議に思っていた。


 そもそも、リシアは人心掌握に長けている。

 こんなに嫌われるということも珍しいと思うが。


「こ、こらレン。嫌いとか言っちゃ駄目だぞ」

「嫌いなものは嫌いだもん」


 チラリとリシアを見ると、表情が凍りついたままだった。

 ここまで嫌いと言い切られるとショックだろう。


 その後、リシアはレンの目の前に行き、しゃがんで視線を合わせて、


「レンちゃんは何でわたくしの事が嫌いなのでしょうか? 嫌われたままでは悲しいので、教えて欲しいです」


 そう質問した。


 レンは無言のまま俯いていたが、しばらくして口を開く。


「だって、あなた兄上のお嫁さんなんでしょ? 兄上は私と結婚するはずだったのに……」


 レンは口をとがらせて、そう呟いた。

 なるほど、つまりリシアにヤキモチを焼いていたのか。

 まあ、まだ子供だからそういう事もあるかもしれない。


「あら、それなら大丈夫よ。アルスは器が大きいから、レンちゃんも将来お嫁さんにしてくれるわ」

「ほんと?」

「ええ、アルス、本当ですわよね」

「あ、ああ」

「やったー」


 私が頷いて返事をすると、レンは目を輝かせて喜んだ。


 納得させるためとはいえ、妹を嫁にすることを認めるのはいかがなものかと思うのだが。子供相手だし、この場を丸く収めるのには良いかもしれない。


「じゃあ、わたくしの事嫌いじゃなくなった?」

「うーん、分かんない」


 レンは首を傾げる。

 いきなり好感度が急上昇するわけではないようだった。


「そうね。まだあんまりお話しした事ないですからね。レンちゃんは何か好きなものあるかしら」


 リシアは雑談を始めた。

 レンは無視せずに雑談に応じる。


「兄上と本と、あとお花が好き」

「奇遇ね。わたしもアルスと本と、お花は好きよ」


 さらっと好きと言われて、若干ドキッとする。夜ではよく言われてるんだが。


「レンちゃんはお花育てたりするの?」

「見るだけ。育て方分かんない」

「そうなの。わたくし育て方には詳しいから、一緒に育ててみる?」

「育てられるの? 凄い! 育ててみる!」


 レンは目を輝かせてそう言った。

 割と二人とも趣味は合うみたいだ。

 これは、意気投合するのも早そうだし、心配はいらないかもな。


「じゃあ、私たちは剣の訓練をするか」

「うん!!」


 私は外に出て、クライツと稽古を始めた。


 数時間後。

 訓練をして、ヘトヘトになって戻った。

 クライツはまだまだ訓練が足りないようだが、体がもたないのでここまでにした。もっと体力をつけないと、この先困る時が来るかもしれないな。ランニングでもした方がいいかもしれない。


 リシアとレンはだいぶ打ち解けたようで、笑顔で話し合っていた。仲良くなれたようで安心した。


「いいですか? 殿方に好かれるには表情が重要ですわ……こうやって上目遣いで……」

「なるほどこんな感じですか姉上……」


 ……何か変な話をしていないか? 

 レンは知略や政治の限界値が高い。

 リシアと仲良くなって順調に成長したら、将来凄い強かな女性になるかもしれない。

 リシアと会話するレンを見て、そう思った。


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