第202話 会議
会議に遅れて私とリシアは出席した。
すでに家臣たちは集まっていた。
リーツ、ミレーユ、ロセル、シャーロット等いつものメンツである。
「遅れて申し訳ない」
私は入った瞬間謝罪をした。
何やらミレーユがニヤニヤとしている。
「朝からお盛んだねぇ……まあ、新婚だし仕方ないかぁ」
そうからかってきた。
完全にバレてる……
見られていたのか。
それとも、予測しただけだろうか。
「世継ぎを残すことは、領主にとっては大事なことです。気にしないでください」
とリーツは真面目な表情で言った。
いや……そんな真面目な感じでくると、余計照れてしまうんだが。
私は顔が赤くなる。これならからかわれたほうが、もしかしたら良かったかもしれない。
リーツがからかってくるわけないけど。
とにかくこの話題を続けるわけにはいかない。
私は話題を変えるため、自分から話を振った。
「そういえばミレーユは、カナレに住居を持って住んでいるという話を聞いたが、ランベルクの領地経営は良いのか?」
ミレーユにはランベルクの経営を任せているのだが、住居をカナレに作って基本そこで生活しているようだ。
こういう会議の時は、呼び出しやすくて良いのだが、ランベルク自体の領地運営はどうなっているのか、心配ではあった。
「カナレとランベルクは大して離れてないし、問題ないでしょ。基本日常業務は部下に丸投げしても、問題ないし」
「丸投げって……」
「んで、どうしても解決しそうにない問題があったら、私が何とかする。それでOK」
何とも適当な態度である。
こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか。
今のところ大きな問題はなく、むしろ順調にランベルクは成長しているという報告を、以前聞いたことはあるが、案外ミレーユの感じでいいのか、もしくはたまたま上手くいっているだけなのかは分からない。
一度任せたからには、明確な問題を起こしてもいないのに、途中でやめろとも言いづらい。
今は任せるしかないみたいだ。
その後、これからのカナレの成長について話し合った。
ミーシアンの内乱が終結したことで、経済的に好影響がある。
バサマーク側についていた郡は、カナレを含むクラン側についていた郡と、取引を行えない状態になっていたが、それが再開されることで、ミーシアン全体に経済的に盛り上がりを見せるようになった。
人の流れもより流動的になった。
当然、その恩恵もカナレは受ける事となる。これからは金銭収支が増加するだろう。
新しい住民が増えやすくなることで、人材の発掘もより行いやすくなるだろう。
戦が起きている時は、一旦看板を取り下げていたが、それも復活している。
これから、鑑定しまくり生活が待っているだろうが、やるしかなさそうだ。
それから、今回はクランから戦功として金を貰ったので、それをシンの飛行船製作資金として使ってもらうことにした。
バサマークがいなくなり、多くのバサマークについた貴族たちが、追放されたり、場合によっては処刑されたりしたので、多くの土地が空いた。それは、今回はもらえなかった。
一気に私が大領主になって権力を得ると、反発も大きくなるだろうから、それを考えてのことだろう。
地道にやっていくしかない。
アルカンテスはクランが治めることになり、元々クランが治めていたセンプラーは、何と息子のレングが領主代行を務めることになった。
正直、だいぶ無能な感じがしただけに、ちゃんと出来るのか心配である。一応、補佐をつけるようだけど。
土地は貰えなかった代わりに、貰えた金は結構多額だったので、シンもこれだけ金があれば十分に飛行船作りに臨めるだろう。
飛行船への投資の他に、鉱山の開発や、カナレにいる触媒機などの道具を作っている職人たちへの、投資など様々な案が出た。
金には限りがあるので、全部は行えない。
職人への投資は、私の鑑定スキルで兵器適性が高い者をきちんと見極めれば、成功しやすいだろう。
カナレはそこまで肥沃な土地ではないので、自然から得たものを売るというより、人材が作り出した物を売ることで経済を盛り上げることの方が、上手く行く可能性が高そうなので、そちらに優先して投資していくことにした。
議題はほかに移っていく。
軍備についての話し合いだ。
当分戦はないだろうとはいえ、気を抜いてはいけない。
「やっぱりもっと魔法兵増やしてほしい」
とシャーロットは前から言っていた主張をもう一度この場で言った。
「それもムーシャみたいな可愛い女の子の魔法兵を。鍛えがいがあるからね」
どうやらムーシャをかなり気にいったので、同じように女性の魔法兵を増やしてほしいと思っているようだ。
もちろん私も魔法兵の増加は必須だと思っているが、やはりそうそう簡単には見つかるものではない。
「僕も魔法兵には一つアイデアがあるんだけど、魔法騎兵隊を新設するのはどうかな?」
魔法騎兵とは、読んで字の如く、魔法を使用できる騎兵のことだ。
騎馬隊に混じり、魔法を使って騎馬隊の突撃をアシストする。
ロセルは魔法騎兵隊と言ったが、どういうことだろうか。
「魔法騎兵だけで構成された、数百から千人くらいの部隊ってのは、今のところ僕の知る限りではない。中々魔法と騎馬の才能を両方持っている人が見つからないからね。アルスの力があれば、もしかしたら作れると思うんだ」
「魔法騎兵隊を作れば、どのくらい戦で効果があるんだ?」
「そりゃ色々運営方法は考えられるよ。敵の背後に素早く回り込んで、魔法攻撃を出来たり、敵の魔法兵の奇襲を素早く騎兵を動かしてガードしたり。攻撃にも守備にも有用な能力を持った部隊が、素早く動き回れるんだからね。もっとも、魔法騎兵が装備できるのは、小型の触媒機だけだから、単純な威力では魔法兵には劣るだろうけど」
ロセルの話を聞いた限りでは、確かに魔法騎兵隊を編成できた場合は、戦では非常に有効的に使えそうだと思った。
しかし、いくら私の鑑定スキルを使ったからといって、そう簡単に編成できるようなものでもないような気はする。
騎馬適性と魔法兵適性がどちらもBくらいは必要だろう。
そもそも、魔法兵適性が高い者はそう簡単に見つからないので、集めるのは容易ではなさそうだ。
「アタシからもいいかい? ちょっと気になってたんだが、弟のトーマスが今どうしてるか知ってるか?」
ミレーユがそう質問してきた。
トーマスは確か捕らえられたはずだけど、それ以降の進展は知らない。
「リーツ、知ってるか?」
「トーマス・グランジオンは、アルカンテスの牢に移送されたらしいです。クラン様に従う気配は全く見せておりません」
リーツは即答した。いろんな情報を彼は記憶している。
トーマスは今も牢にいるみたいだ。
それはそうだろうな。クランは彼の主人であるバサマークを処刑した。
従うはずがない。
このままずっと幽閉されるか、処刑されるかどうなるだろうか。
「今すぐじゃなくてもいいんだが、奴に会いに行って連れてきたいと思うんだがいいかい?」
「トーマスを連れてくるのか?」
「うん」
ミレーユは頷いた。
成功する算段でもあるのだろうか。
「奴は坊やの目から見て、有能だったかい?」
私はトーマスのステータスを思い出した。
正確な数値は覚えていないけど、九十台の能力値が複数あった気がする。有能なのは間違いなかった。
「ああ、有能だった」
「じゃあ、家臣にしても問題はないね」
「いや……問題はないのだが、そもそも連れてくるって出来るのか? 確かにミレーユは、トーマスの姉なのだろうが、あまり好かれているようには見えなかったぞ」
「好かれてはいないだろうさ。でも、どれだけ嫌われようと奴は私の弟だ。従うことになるのは間違いないよ」
ニヤリとゾッとするような笑みを浮かべて、ミレーユは言った。
何やら姉弟にしか分からない、事情があるみたいだな。
トーマスが家臣になるのなら、反対する理由はない。
「分かった。トーマスを説得しに行く日が決まったら教えてくれ。クラン様に書状を出そう」
「りょーかい」
私の言葉にミレーユはそう返答した。
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