第200話 初夜
「は、はは、入って良いですよ」
声を大きく振るわせながら、私は扉の外にいるリシアに向かって言った。
「失礼します……」
扉が開いた。
白いネグリジェを身につけたリシアが、部屋に入ってきた。
リシアの顔は真っ赤だ。視線は斜め上を向いていて、そわそわしている。分かりやすいくらい緊張していた。
割と意外ではあった。こういう時でも、余裕を持ってそうなイメージを持っていたからだ。
よく考えれば、彼女もまだこういう経験などないだろうから、緊張して当然である。
リシアは歩き始めた。だが、右手と右足が同時に出て、非常にぎこちない歩き方になっている。
その様子がおかしくて、私は思わず吹き出してしまう。
リシアは顔をさらに赤くして、りんごみたいになった。
リシアは少し早歩きになり、私の近くまで来るとちょこんとベッドに腰をかけた。
「ひ、酷いですわ。笑うなんて……」
口を尖らせてリシアは言う。
その困った様子も可愛かった。
リシアのそんな様子を見て、ちょっとだけ緊張がほぐれてきた。
「ご、ごめんなさい。少し意外だったものですから」
と私は咄嗟にそう言った。
「わ、わたくしもいざという時、困らないよう、夜伽の方法を一番年長のメイドに聞こうとしたのですが……何も知らない無知のままの方が、殿方はむしろ喜ぶとおっしゃられましたので、何も知らないままこの日を迎えることになってしまいましたの……こ、こんな事なら、教えてもらうべきでしたわ……」
私は心の底から、そのメイドさんにグッジョブと言った。金貨を数枚あげたいくらいである。
「そのメイドの言葉は正しいですよ。男はやはり女性をリードしたいと思うものです」
「そ、そうなのですか……? でも、年齢的には私の方が上ですし……」
「年齢は関係ありませんよ。今のリシア様とても可愛らしいです」
私がそう言うと、再びリシアの顔が真っ赤に染まった。
「か、からかわないでください」
「からかってませんよ。本心です」
「も、もう……」
「あ、そうだ。リシア様は何も教えてもらってないようですが、どんなことをするか全く知らないのでしょうか?」
「え、えーと、は、裸になって……抱き合って……?」
あまり詳しいところまでは知らないようだ。一応、どういうことをするか知っておかないと、心の準備もできないだろう。
私は具体的な性知識をリシアに教えた。
「え、えええ!? そ、そそれって……わ、わたくしの体を、隅々までアルス様に見られて、触られるということですか!?」
顔を真っ赤にしてリシアは焦る。
「ま、まあそういうことになりますね」
「は、恥ずかしすぎます! そんなの……あ、いやでも逆に言えば、わたくしがアルス様の体を隅々まで見て、触れるということで……そ、それは……魅力的な……はっ、な、何でもありませんわ!」
リシアは妄想を振り払うように首を振りながらそう言った。
その後、数秒間沈黙。
私は意を決して、リシアの右肩に自分の右手をかけ、グッと引き寄せた。
顔と顔が急接近する。
「アルス様……」
リシアが目を瞑った。私はそっと唇をリシアにつける。
そのまま、ベッドにゆっくりと押し倒した。
「リシア様……」
唇を離して、私はリシアの名を呼ぶ。
「夫婦になったのですから、これからはわたくしの事は、リシアと呼び捨てにしてください……口調ももっと他の皆様にするような感じで……」
リシアはそうお願いしてきた。
確かに結婚したのにこれまでの呼び方や口調ではおかしい。
「わ、分かりました……じゃなくて、分かった。リシア」
私が名前を呼ぶと、リシアはうっとりとした表情を浮かべた。
「私のことも、アルスと呼び捨てにしてもらいたい」
「え? しかし、それは……」
「リシアとは対等なパートナーでいたいと私は思っている」
「……」
しばらくリシアは沈黙した後、少し遠慮がちな声で、
「ア、アルス……」
と私の名を呼んだ。
「リシア……」
「アルス……」
それから私たちは慣れるまで名前を呼び合った。前世では『爆発しやがれ』と思っていたリア充みたいな感じになっているな、と思いながらも、呼ぶのをやめる事はできなかった。
数回呼び合った後、私の方からリシアにキスをした。初めてディープキスをした。
それから二人で甘くて熱い一夜を過ごした。
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