第199話 結婚式後

 誓いのキスの後は、リーツやロセルたちが祝辞を述べた。


 またクランはこの場には来ていないが、祝いの書状を送ってきた。

 結構マメなところがある人だ。


 その後は、一気に宴会ムードになった。


 皆で食事と酒を楽しむ。


 出し物なども催されており、割とお祭りみたいな騒ぎになっている。


 貴族たちのパーティーといったら、もっと上品な感じをイメージするけど、上品さはほとんどなかった。


 だが、私としてはこういう雰囲気の方が、馴染めるし楽しかった。


「アルス様、このお肉美味しいですわよ」


 リシアも私と同じく楽しんでいるようだった。


「あ、良かったらわたくしが食べさせて差し上げますわ。はい、あーん」


 リシアはフォークに肉を突き刺して、私の口に近づけた。


 あーん、は私が彼女にやってもらいたいと思っていた行動ベスト3に入るのだが、ここは周りに大勢の人がいる。


 すごく照れくさい。


 しかし、せっかくやってくれたのだから、拒否はしたくない。


 周りをキョロキョロ見て隙を突くかのように、肉を食べた。


「どうですか?」

「お、美味しいです」


 味は確かに美味しかった。だが、それ以上に、憧れのあーんをしてもらえたという喜びが大きかった。


「中々お熱いじゃん」


 と気づけば私の隣にシャーロットの姿が。


「み、見ていたのか?」

「ばっちりと」


 シャーロットはニヤニヤしている。

 これはからかう気満々な表情だぞ。


「じゃ、邪魔をしちゃ駄目ですよ」


 常識人のムーシャがそう言って止めようとするが、シャーロットは聞き入れる気がないようだ。


「よし、わたしもアルス様にこれを食べさせてあげる」


 ケーキをフォークに刺して、私の口元に近づけてきた。


「ま、待て……」


 私は狼狽える。


「シャーロット様? 何をなさっているのですか?」


 リシアが恐ろしい声色で言う。

 後ろを確認してみると、口元は笑っているが、目は笑っていなかった。


「あ、あはは、冗談だよ」


 シャーロットは、笑って誤魔化しながら、ケーキを自分で食べた。


 リシアの迫力に、さすがのシャーロットもたじろいだようだ。


「アルス様も、もっとはっきりと断れば良かったのに、何で狼狽えたのですか?」


 う……

 私に追及が来た。

 少し怖い。


「いや、当然断ろうとしたぞ。しかし、いかんせん突然のことだったからな。戸惑ってしまったわけだ」

「そうだったのですか。食べる気はこれっぽっちもなかったわけですね」

「ああ、当然だ」

「それなら良かったです」


 リシアは笑顔だけど、妙な迫力を感じる。


 何だか、私はこれからリシアの尻に敷かれそうな気がした。


 食事を終えた後、私の誕生日だということもあって、プレゼントを貰ったりした。


 昨年も誕生日には色々もらったが、今年は結婚もするということで、さらに価値の高いものを貰った。


 結婚式と誕生日会が長ーく続いて、夜になってようやくお開きになった。


 私はかなり疲れたので、その日はすぐに寝た。



 翌日。


 ルメイルや、リシアの父のハマンドなどが帰るので見送りをすることに。


「これからも娘を頼んだ……いや、頼みましたカナレ郡長アルス・ローベント様」


 今ではハマンドは立場上私の下なので、敬語になるのだが、義父となる人が敬語というのは、何ともむず痒い気がする。


「リシア様を必ず幸せにします」


 ハマンドに改めてそう誓った。


「ルメイル様、この度はお越しいただき、誠にありがとうございました」

「構わんよ。お主とわしの仲ではないか。しかし、カナレは大規模な侵攻をかけられた割には、疲弊していないようじゃな」


 ルメイルは意外そうな表情でそう言った。


「これからは、お主がカナレを大幅に発展させてくれると、信じておる。頑張るのだぞ」

「はい!」


 ルメイルの激励に、私は力強く返答した。


 ルメイルとハマンドは自らの治める領地に戻って行った。



 ○



 その日の夜。


 結婚式当日は騒ぎ過ぎ、結局そのまま寝てしまったので、一日遅れることにはなったが……


 結婚したということは、即ちそういう行為をするわけで。


 俗にいう初夜を今日迎えることになった。


 風呂に入って体を清めた後、私は寝室に入る。


 リシアはまだいない。

 しばらくしてから来るようだ。


 ベッドに腰掛けて貧乏ゆすりをしつつ、リシアが部屋に入ってくるのを待った。


 ほ、本当に今日するのだろうか?

 上手くできるだろうか私に。

 前世で私は童貞だった。

 当然、今世でもそのような経験はない。


 急に怖気付いてくる。


 ここで寝た振りでもしてしまえば……


 いやいや、それはヘタレすぎる行動だ。リシアに幻滅されかねない。


 覚悟が全く決まらないまま、待っていると、コンコンと寝室の扉が叩かれた。


 心臓がドクンッと大きな音を立てた。


「アルス様、リシアです。入ってもよろしいでしょうか?」



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