第198話 結婚式
結婚式。
前世でも夢見たことはある。
21歳くらいまでは、将来結婚するのだと、特に根拠もなく信じ込んでいた。
それから社会に出たが、特に出会いはなく。
気付いたら35歳になっていた。
その歳まで、まともに彼女も出来ていなかったので、結婚なんて夢のまた夢という状態だった。
それがアルス・ローベントとして生を受けた今世では……
まさか14歳で結婚式……
改めて考えると、早くないか14歳って。
前世の半分も生きてない。
子供は一応作れる状態にはなってるんだが。
と、そんな事をタキシード姿で考えていた。
結婚式が行われるのは、今から二時間ほど後だ。今更もう後に引くことなどできない。
カナレ城の大広間を使って行われる。教会とかでやるわけではないようだ。
私は自室で着替えて、待機をしていた。今、リシアもドレスに着替えているところだ。男より女の方が時間はかかるので、待っているところだった。
めちゃくちゃ緊張してる。
結婚式のやり方は、この世界でも愛を誓った後キスをする、みたいな感じだ。
神の前で誓うわけではなく、人の前で誓うらしい。立会人がいるのだ。
私のような貴族の場合は、格上の貴族を立会人として呼ぶ。
今回はルメイルが立会人に来てくれる。
ルメイルには、祝宴が終わった直後くらいに立会人を申し込んだのだが、快く受け入れてくれた。
クランに頼まなかったのは、流石に立会人を頼むのは恐れ多い気がしたからだ。
立会人ルメイルの言葉を聞いた後、愛を誓いキスをするだけで、新郎新婦が特別なスピーチをしたりはしない。
難易度は高くないといえば高くない。だが、なぜかドキドキする。
しばらく時間が経過して、カナレ城に仕えるメイドが、リシアの着替えが終わったと告げに来た。
ついに始まる時が来たか。
会場に入る前に、一度リシアと会って、それから二人で並んで会場に入り、ルメイルの前まで歩いていく。
そういう感じの流れである。
私は立ち上がり、深呼吸をした後、部屋を出た。
大広間の近くにある控室にしている部屋に行く。
リシアはまだ来ていなかった。
しばらく待つこと数分。
リシアが部屋に入ってきた。
純白のウエディングドレスを身につけている。
あまりに綺麗だったので、私はしばらく言葉を失って、リシアを見つめていた。
何も言わない私を見て、リシアは不安げな表情になっている。
しまった。
ここは男として、きちんと言葉にしないと。
「リシア様、大変お綺麗です」
私がそう言うと、リシアは微笑みながら、頬を少しだけ赤く染めた。
「アルス様も、かっこいいですわ」
そう言われるとドキッとしてしまった。
私たちはそのあと、二人並んで歩き式場に向かう。赤いカーペットが敷いてあったので、その上を歩いた。
音楽隊が穏やかな曲を演奏している。
式にはいろんな人が参加していた。
もちろん私の家臣たちもいる。
一人一人様子を見てみた。
リーツは、私の姿を見て、ボロボロと号泣している。
「アルス様……ご立派になられて……」
何か、爺やみたいなセリフを口にしていた。
シャーロットは……食事をしていた。
ムーシャも誘って一緒に食事をしていたようだ。
ムーシャの方は、私たちが入場したのに気づいて、シャーロットの服の袖を引っ張っているのだが、シャーロットは食べるのに夢中で全く気づかない。
ロセルはめちゃくちゃ緊張して、顔が青ざめている。
それもそのはず、彼は私たちへメッセージを読む事になっている。
リーツが最初に読んで、次はロセルという流れだ。
あまりこういうのに慣れていなさそうなので、緊張するのも無理はない。
ミレーユは酒を飲んで、メイドに絡んでいた。
よく見たらそのメイドはシャドーのリーダーファムだった。
ファムは一応メイドに扮装しているので、メイドらしい仕草で対応していたが、内心イライラしてそうだ。
ミレーユにブチ切れてボコボコにしないか心配である。
ブラッハムはザットの隣で、大人しく座って私たちの入場を見ていた。
意外であるが、よく見るとブラッハムの頭にはたんこぶが。
何かやらかして、リーツに叱られたのだろうと予想がついた。
私たちは赤いカーペットの上を歩き続けて、ルメイルの前に辿り着いた。
そこで立ち止まる。
演奏がそこでストップ。
しばらく静寂が場を支配する。
飯を美味い美味いと言いながら食べてたシャーロットも、ファムにちょっかいを出していたミレーユも、この時ばかりは静かにしているみたいだ。
静寂をルメイルの声が破る。
「アルス・ローベント。リシア・プレイド。今後お主らは夫婦となる。病める時も、健やかなる時もお互いがお互いのそばに居続けると、誓うか?」
そう問われた。答えはとうの昔に決まっている。
「「誓います」」
ちょうど同時に言ったので、私とリシアの声が重なった。
「それでは誓いの口付けをするのだ」
ルメイルに促される。
私はリシアに近づき、その唇にそっと自分の唇を付けた。
三秒ほどで離す。
「お主らの誓いは、このわしルメイル・パイレスが見届けた。誓いを決して破るではないぞ」
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