第192話 優勢
敵騎兵を撃退した後、敵兵は色々な陣形を試して、自軍の撃退を試みてきたが、悉くリーツとミレーユの指揮で、跳ね返し続ける。
敵軍は、防御魔法が使用不可能な状態とはいえ、二人の兵の統率力は非常に高かった。
的確な指示を送り、それを兵士たちが瞬時に遂行している。
現時点で、自軍に大きな被害はなく、敵軍を一方的に討ち取り続けている。
こうなると、敵軍に残された選択肢は、撤退するしかないと思うが、どうするだろうか。
考えていると、
「サイツ軍、後退し始めました!!」
報告があった。
ここまでは上手く行った。
あとは、シャーロットと上手く連携して、敵を川に追い込むだけである。
川上に陣取ったら、音魔法での報告があるはずだ。
シャーロットのように魔法が得意なものが、音魔法を使えば、普通より遠い距離に音を届けることができる。
これから私のいる本隊も、サイツ軍を追い込むため動くが、シャーロットの音魔法の射程圏外まで行くことはないだろう。
問題はシャーロットに向かった兵たちだが……
まあ、ブラッハムを送ったし何とかなる……だろう。
ちょっと心配だが、私は信じて敵を追い込む作戦を実行に移し始めた。
○
シャーロットは、川上で待機しながら、アルスのいる本隊からの合図を待っていた。
「暇だなぁ……」
水の魔力水は既に入れており、あとはもう撃つだけという状況だ。
「ねー、暇なんだけどー。何かいい暇つぶしない〜?」
「シャーロットさん……緊張感がありませんよ……」
一緒に来ていた兵の一人が、シャーロットの様子を咎める。
「暇なら釣りをしてみては? 俺は時間が空いた時やってますよ」
不真面目な兵が釣りを勧める。
「釣り? どうやるの」
「釣り竿を使って魚を釣るんですよ。ちょうど川がありますしね」
不真面目な兵士は釣り竿を取り出す。
「お、お前なんでそんなもん持ってきてんだ! なんか長い物背負ってると思ったら!」
「別にいいだろ? これあっても戦えるし」
「よくねぇーよ!! 今度リーツさんに報告するからな」
「は!? それは勘弁してくれぇ! 今度、酒奢ってやるからぁ!!」
不真面目な兵士が脅されている間に、彼の持っていた釣り道具を取り、シャーロットは釣りを始めた。
餌を竿につけて、川に投げ込む。
数分後。
「釣れない。つまんない」
「あの、シャーロットさん? まだ数分ですよ? 釣りはそう簡単に結果が出るものでは……」
「でも、座ってるだけじゃん。何もしてないのと一緒だよ」
「いや……釣りってそういうものっていうか……そろそろ釣れるかな? っていうワクワク感を楽しむものというか」
「つまんない。やめた」
シャーロットは釣り竿を横に捨てて、ほかに何か暇を潰せることがないか、探し始めた。
「あの……ちょっと皆さん呑気すぎやしませんか? 今、僕たちは結構ピンチなんですよ?」
顔色の悪い兵士がそう言った。
彼は少しだけ震えている。
「ピンチ?」
「はい。敵の部隊がこちらに向かって来てるって……報告が来たじゃないですか」
「来たね。でも、援軍も送ったから大丈夫って言ってたよ」
「本当にそうでしょうか」
「ま、なるようになるさ」
シャーロットは特に焦る様子はない。いつものマイペースを維持している。
「あのシャーロットさんは、いつも態度が同じですが、死ぬのは怖くないんですか?」
「怖くないよ」
特に考えず、シャーロットは即答した。
兵士たちは困惑する。
どれだけ勇猛な者でも、死は恐れているはずだ。それを怖くないと言い放ったのだ。
「てか、わたしは戦場に出ていっぱい敵兵を殺しているわけじゃん。もう何人殺したか覚えてもいないよ。そんな奴が、死ぬのが怖いとか言ってたら、何かダサくない?」
「ダ、ダサいとかダサくないとか。そういう問題なんですか?」
「違うの? まあ、わたしは変だからね。普通は違うのかもね」
シャーロットはそう言って、再び何か暇つぶしになることを探す。
その時、
「大変です! 敵兵の姿を確認しました!」
近くの様子を探らせていた斥候兵から、そう報告が来た。
「来ちゃったか。味方の援軍は?」
「それがまだ姿が見えず……」
「もしかして間に合わない?」
「かもしれません」
そういうと、兵士たちが暗くなる。
かなりまずい状況である。
「逃げるわけにはいかないよ。ここは死守しないと」
シャーロットはいつも通り、マイペースな態度だった。
指揮官が慌てていないので、兵士たちも精神的に少し楽になった。
「大丈夫、いつも通り殲滅すれば良いだけだから」
シャーロットは皆を安心させるように、そう言った。
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