第191話 サイツ軍の騎兵

 敵の姿を確認し、敵陣が魔法兵の間合いに入ったのを確認し次第、全軍が一気にストップした。


 私の率いる本隊は、全軍の最後列中央にいる。左右に本隊を守備する部隊。数は多くないが、兵の質は低くない。


 前列にリーツが率いる隊と、ミレーユが率いる隊が並んで布陣している。


 その後ろに、クラマント率いる、メイトロー傭兵団が布陣している。


 敵軍の行動により、臨機応変に動いてもらう。そのために、本隊の近く、命令しやすい場所に布陣している。


 二人の隊は最前列に、盾を構えた歩兵を配置し、その後ろに魔法兵を、ずらっと並べている。


 大型触媒機が十二台。ほかの魔法兵は全て中級と下級の触媒機を装備している。


 敵軍はこちらに気づいているだろう。警戒態勢をとっている。


 しかし、突撃はして来ない。

 数はこちらの方が少ないので、敵軍に魔力水がきちんとあれば、躊躇なく撃退しに来るだろう。


 今は、資源不足が行動を消極的にさせているようだ。敵軍の指揮官は、未だにどう行動するのが最善か、答えが出ていないのかもしれない。


 とにかく動かない敵は、現状ただの的である。


 私は、ミレーユとリーツには、ある程度自分の考えで動いていいと、事前に告げてある。


 こんな明らかな好機を見逃す二人ではない。


 すぐさま魔法兵に指示を送り、魔法攻撃を使わせた。


 炎属性の魔法が一斉に発射される。


 敵軍も、完全に魔力水が無くなったわけではない。最初のあたりは、何とか防御していたが、徐々に防御しきれなくなった。


 こうなると、敵兵は前進するしかない。犠牲覚悟で、一気に突撃してきた。


 実際目の当たりにはしていないが今回の戦では、このように兵を大勢犠牲にしてでも、攻め切る戦い方をサイツ軍はしてきているようだ。


 考えなしの特攻にも見えるが数で大きく勝る場合は有効ではある。


 実際、そのやり方で最初は突破された。


 今回は、カナレ軍側としても、使える兵は総動員している形である。


 その上で、魔力水はこちらしか持っていない。


 シャーロットはいないという不安要素はあるが、それでも力尽くで突破はされないはずだと、私は思った。


 その予想は正しかった。敵兵はカナレ軍の魔法で、次々に討ち取られていく。


 ムーシャの魔法は予想より強かった。当然シャーロットよりは弱いが、かなりの威力である。


 魔法は武勇の値も重要だが、それよりも適性の高さが重要になるのだろう。


 リーツとミレーユの指示も的確だ。

 上手く敵との間合いを測り、後退したり前進したりしている。


 前衛は突破されずに、敵兵に攻撃をし続ける。


 苦しくなると、敵は後退するしか道はなくなる。


 今回の戦の目的は、まず撤退してもらう事であるが、敵は下がりたくはないようだ。敵軍はここまで来るのに、決して少なくない損害を受けている。何度もシャーロットの魔法を食らったようだ。意地になるのも頷ける。


 ただ、敵兵は意地だけで残るという決断をしたわけではなく、策略があるようだった。


 大勢の騎兵が出陣して、こちらに向かって来ているようだった。


 魔法の次に怖いのは、やはり機動力のある騎兵である。


 あの速度で動かれると、魔法を当てにくい。


 狙いはリーツ、ミレーユ隊ではなく、私のいる本隊のようだ。


 右側と左側から挟み撃ちにするような形で、騎馬隊が迫ってきている。


 大将を狙うのは、戦の常套手段だ。


 当然それに対する対応策も取っているので、リーツやミレーユが騎馬の動きに釣られて、動きを乱すことはない。


 私のいる部隊も、慌てふためいたりはしない。ロセルは、敵が騎馬隊を使ってくるタイミングも、読み切っていたようだ。すぐに指示を出した。


「メイトロー傭兵団、本隊の防衛を援護!」


 ロセルの指示を受け、メイトロー傭兵団は動き出した。彼らは、きちんと指示を聞くときは聞いてくれる。


 傭兵は勝手に戦をするイメージを持っていたが、そうではない。


 もしかすると、そのイメージは正しくて、メイトロー傭兵団が優秀だから、きちんと指示に従うのかもしれない。


 クラマントの兵の統率は非常に上手で、傭兵団たちはスムーズに移動をし、一瞬で騎兵に対する防御を固めた。


 前衛に槍兵を置き、突撃を受けないような形にしている。


 ロセルも同じく、騎兵に対応する形に、兵を変更させた。


 この変更もスムーズだ。


 敵の騎兵が迫ってきた。


 敵の騎兵は、騎手の腕が良いのか、馬の品種が良いのか分からないが、とにかくスピードがある。


 馬のサイズも普通より大きいので、非常に迫力があった。


 それでも怯まず指示を送る。


「魔法兵準備!」


 魔法兵は全員、リーツとミレーユの隊に編成したわけではない。


 今回のように騎馬隊の強襲もあると予見していたので、本隊とメイトロー傭兵団にも、配置していた。


 各隊に二十人ほどではあるが、魔法の効果はそれでも高い。


 ロセルの指示で、魔法兵が敵騎兵に向かって、炎魔法を放つ。


 何匹かの馬は怯み、統率が乱れた。


 騎兵で突撃する際は、魔法兵で敵の魔法を防御しながら行くか、馬をかなり訓練させ、魔法に怯まないようにさせないといけない。


 敵の騎兵の中にも、訓練がかなりされているのか、怯まない馬もいた。


 しかし、怯む馬がいると、ほかの馬の走りを妨害するので、何匹か怯んだだけで、だいぶ騎兵の進行速度が遅くなった。


 騎兵は速度がついた状態で突っ込むと、かなり効果があるが、速度を殺せばあまり怖くない。


 敵騎兵は、速度が落ちた状態で、本隊に突入した。長い槍で、馬ではなく騎手の方を狙わせ、どんどん討ち取っていく。


 敵の統率を乱した時点で、こちらの勝ちは決まっていた。敵の騎兵たちは引いていった。


 メイトロー傭兵団の方も、無事撃退したようだ。


 結局、事前に敵軍の動きを読めていたのが、撃退できた要因だったな。








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