第188話 合流

 クメール砦から約八千の兵を引き連れて、私たちは出陣した。


 とにかく早く進軍をした。


 リーツのいる軍と合流し、そこからあまり時を置かずに、敵軍を攻めることになっている。


 水魔法を使用する魔法兵に関しては、どうしようか相当悩んだ。


 強力な激流を起こさなければ、サイツ軍を追い込むことはまず不可能だ。


 そこまでの激流を起こすには、シャーロットにやってもらうか、もしくは大勢の魔法兵を使って起こすしかない。


 シャーロットに任せた場合、敵軍を追い込む時と、追い込んで殲滅を行うとき、シャーロットの魔法を使用できなくなってしまう。それは非常に痛い。彼女の魔法の威力は、非常に重要なのである。


 しかし、大勢の魔法兵を失うのも当然問題がある。

 さらに、魔力水の量が足りなくなりそう、という問題もあった。


 水の魔力水をサイツ軍から手に入れたとはいえ、そこまで数は多くない。


 シャーロット一人で、水魔法を使用した場合、消費する魔力水はそれほど多くない。

 彼女のように、魔力適性が高いものは、同じ量の魔力水で普通の何倍の威力の魔法を使うことができる。

 大勢の魔法兵を使う場合、シャーロット一人分の威力の魔法を起こすのに、大量の魔力水を要する。


 結局足りなくなる可能性が高い。


 川に激流を起こすのは、シャーロットとカナレ軍でも上位の魔法兵に任せることになった。


 シャーロットがいなくなるのは痛いが、この前、私が鑑定スキルで見出して、登用したムーシャが、ここ最近覚醒の気配があり、だいぶ上達したと、リーツの報告にあった。


 調べてみると、武勇が当初確か42くらいだったが、70まで上昇していた。


 シャーロットと比べると劣るだろうが、それでも魔法兵適性Aの武勇70なので、それなりの威力で魔法を使えるだろう。彼女以外に魔法兵適性がAの者はカナレ軍にはいないので、どのくらいの威力かは見ないと分からないけど。


 しばらく行軍し、リーツの軍に合流した。


 そして、即座にリーツたちと軍議を開始する。話し合いの時間も最低限に終えなければいけない。


「書状に作戦の内容は書いたから分かっているとは思うが、一応きちんと伝わっているか確認しておきたい」

「これから、カナレ軍ほぼ全軍で、サイツ軍に奇襲を仕掛けます。魔力水が枯渇しているサイツ軍は、魔法がまともに使えず、現状かなり弱体化しているので、勝機があります。まずはそこで戦に勝ち、敵が撤退した場合は、後方にある川に激流を発生させ、敵軍を撤退不可能な状態に追い込み、殲滅します」

「その通りだ」


 この作戦にはいくつかハードルがある。まず、魔力水が少なくなった状態とはいえ、サイツ軍に勝てるかどうか。

 シャーロットは、川に激流を起こすので、最初の戦には参加不可能である。戦に勝った後、敵が思ったより速く撤退を成功させた場合、間に合わない可能性がある。


 そうなると、最初の戦闘での火力が下がり、勝率は下がるだろう。


 そして勝った後、殲滅に成功するかどうかも確実性はない。

 川の激流も永久には起こせない。時間制限があり、そこまでサイツ軍にうまく守り切られたら、思ったほど倒せないかもしれない。


 不安要素は私が考えつくだけで、いくつかある。ロセル、ミレーユ、リーツなど、私より頭が切れる家臣たちには、もっと色んな可能性が頭をよぎっているかもしれない。


 それでもやるしかない。少ない兵力で、大勢の相手を倒すのに、何のリスクもかけないでいることは不可能だ。


「シャーロットは少数の兵とともに、川の上流へと向かってもらう。見つからないよう、慎重に行動してくれ。水魔法を使って欲しい時が来たら、音魔法で合図を飛ばす」

「分かったー。ま、見つかったら魔法でぶっ飛ばすから、心配はしないでー」


 シャーロットには重要な任務を任せたのだが、いつものお気楽な様子だ。

 心配になるような頼もしいような、よくわからない。

 まあ、変に気負わない方が、うまくやってくれそうな気はする。


「それよりわたし抜きで、戦に勝てるのかが心配だな」

「何とかする」


 シャーロットに心配されるとは。

 まあ、実際、カナレ軍はシャーロットの火力にだいぶ頼っていたのは事実である。

 彼女抜きでは不安があるのは間違いない。


「兵の準備は完璧か?」

「はい、いつでも出陣する準備はできております」


 リーツがそう返事をした。


「それでは兵を出陣させ……」

「あー、待った、兵を出す前に、シャドーに情報を流させた方がいい」


 ミレーユがそういった。


「敵軍に勝った後に流した方がいいのでは?」

「まず情報を流すと、敵軍の士気の低下を見込める。先の方がいい」

「……確かにそれはそうだな。どんな情報を流すべきだ?」

「クランが戦に勝利し、カナレに向かっている、とかがいいんじゃないのか? それに加えて、クランが勝ったから、カナレ軍は勢い付いて、一気呵成に攻撃を仕掛けるという情報も流す。カナレが一気に攻撃を仕掛けるのは事実だし、クランが勝ったという情報にも信憑性は増す。詳しく調べたらクランが勝ったというのは嘘だとすぐわかるだろうが、今のサイツ軍にそんな余裕はない」


 ミレーユの案に反対は出なかった。

 すぐに、シャドーにそれを伝え、工作を行うよう指示を出した。


「それではシャドーの報告を待ってから、出陣をしよう」


 私はそう指示を出した。


「あ、シャーロットは事前に川上に行って、水魔法を使う準備をしていてくれ」

「りょーかーい」


 シャーロットはいつも通りお気楽な様子でそう言って、出陣した。


 あまり目立つ部隊にすると、敵軍に怪しまれるので、シャーロット隊は、数人の魔法兵と少数の護衛兵だけという構成になった。


 私たちはシャドーの報告を待った。

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