第173話 勝利後

 初戦に勝利した日の夜、リーツ達の陣は、勝利に沸き立っていた。


「見たか俺の大活躍を! 敵の将を討ち取ったんだぞ!」

「君は残党がりをしていただけだろう。本当に大活躍だったのはシャーロットさんだ」


 調子にのるブラッハムに、ザットがツッコミを入れた。


「第一戦功は確かにわたしだけど、第二戦功はムーシャだね。あんなにすごい魔法を使うなんて、やっぱりアルス様に、認められただけはあるかもね」

「そ、そんな私なんか」


 ムーシャは褒められて、笑顔を引き攣らせていた。


 魔法は成功したが、大勢人を殺したことで、精神的にダメージを受けているようである。


 ムーシャ以外は、戦の経験がある程度あるという者が多く、気にせず騒いでいる。


 その様子を見て、少し調子に乗りすぎていないかと、リーツは思ったが、兵士たちに羽目を外す時間を作るのは、必要なことであるので、過剰に注意したりはしなかった。


 ただ、指揮をする側まで、気を緩めるのはまずい。


 リーツは、全員がはしゃいでいる間、いつも以上に気を引き締めていた。


(初戦で、我が軍の死傷者は数十人であるのに対し、敵軍は千人以上討ち取った。敵軍の総数は、まだまだいるが、大戦果なのは間違いない。このまま、撤退してくれればいいが)


 と、リーツは考えたが、そう甘くはないと思っていた。


 確かに撤退させるのが、一番理想的な終わり方ではある。


 しかし、いくら大敗したとは言え、数万人の兵を集めたのに、初戦だけ戦って、撤退するというのは、示しがつかない。


 最低限何らかの戦果を得るまでは、帰って行かない可能性が高い。


(あと数回、戦で勝利して停戦の交渉を行う。こちら側から何らかの譲歩は必要かもしれないが、戦に勝ってさえいれば、成立するかもしれない)


 金であったり、もしくは価値の高い芸術品、資源などを譲渡すると約束すれば、敵側も戦利品なしというわけではないので、一応の面目も立つ。


 戦を続けて負けるのが、敵からすると一番最悪の事態だ。そうなると体制の崩壊を招く恐れもある。


 落とし所があれば、飲み込んでくる可能性は十分考えられた。


 勝っているのに、譲歩するのも癪ではあるが、それで数万の軍勢を追い払えるなら、安いものである。


(初戦の大敗で、敵軍はかなり士気が落ちている可能性が高い。最初の戦いを見て、何らかの策を打ってくるとは思うが、シャーロットの魔法に策は無意味だ。次の戦いも勝てるはずだ)


 リーツは手応えを感じていた。


 ○


 私たちはクメール砦にて、初戦は大勝したという報告を受けていた。


「敵は千人以上死傷、味方の被害は数十人です。大戦果と言えるでしょう」


 報告に来たのは、ベンである。

 相変わらず、情報を伝えてくれるのが早い。そして、恐らく正確でもあるだろう。


「はっはっは、やるねー、リーツたちは。そこまで圧勝するとは思わなかったよ」


 痛快そうにミレーユは笑った。


「敵も評判ほど強くはないかもなぁー。この戦、確実に勝ったね」


 ミレーユはキメ顔で、そう言った。


 フラグ発言にしか聞こえないのは、気のせいだろうか。


「だ、駄目ですよ師匠! 気が緩みすぎです!」

「アタシ、この戦が終わったら、高級な酒を浴びるように飲むんだ……」


 またフラグみたいな事言ってる。

 何か、嫌な予感がしてきた。


「向こうは、こっちより兵の数で、かなり上回っているんですからね。当たり前のことですが、戦いは結局数が多い方が、有利になるものです! まだまだ油断は出来ませんよ!」


 ロセルはやはり、大勝利のあとでも気を緩めたりはしないようだ。


 私も大勝利との報告で、気が緩みそうになったが、改めなくてはいけないな。


 そう考えていると、報告が来た。

 シャドーではなく、クメール砦の兵士だ。


「アルス様、リシア・プレイド様がお見えになられていますが、お会いになりますか?」

「リ、リシア様が?」


 予想外の事に私は驚いた。


 ここは戦の前線で危険な場所である。


 今すぐ敵軍が攻めてくるという事はないし、攻めてきても命がけで守るほどの砦でもないので、撤退はするだろうから、怪我をしたりする可能性はそう高くはないが、それでも安全な場所とは言えない。


 そんな場所に、リシアが来るとは。

 何の用だろうか。リシアは頭も良い。戦が起きているということは、知っているだろうから、大した理由なく来ることはないだろうが。


 とにかく早く会おう。

 私は部屋を出て、リシアを出迎えに行った。


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