第172話 開戦

 数日後、敵軍が近くまで来たという報告が、リーツの元へと届いた。


 触媒機はすでに設置できているし、戦闘の準備はもうすでに終わっている。

 来るならいつでも来いという状況であった。


 しばらくリーツは敵が攻めてくるであろう、方向を眺める。


 しばらくすると、地鳴りのような音が聞こえてきた。


 サイツ軍が到着した。


 一気に軍勢が攻め寄せてくる。


 リーツはすぐには指示は出さない。


 まず敵が川に到達するのを待つ。

 進軍速度が遅くなったところを狙いうつ。


 当然相手も、それを予測して、入念に防御魔法を掛けてくるだろうが、問題ない。


 自軍にはシャーロットがいる。


 川に敵軍が入ったのを見て、リーツは魔法を使うよう合図を出した。


「放て!!」


 一番最初に、シャーロットが魔法を放つ。


 放ったのは炎属性最強の魔法『ヘル・ファイア』。

 爆発魔法を本来は使いたいところではあるが、数が少ないため、もっと重要な拠点の防御のために残していた。


 この戦に全てを掛けて、使うという意見もあったが、そこまでのリスクは掛けられないと判断だった。


 炎魔法は、爆発魔法に比べて、威力が弱く防御がしやすいのだが、シャーロットには関係なかった。


 ヘル・ファイアは大型触媒機の魔力水を全て消費して使う魔法である。


 普通の魔導師が使っても、爆炎で戦場を包み込み、地獄のような光景を作る魔法であるが、シャーロットが使った場合は地獄を超えていた。


 敵の防御魔法などなかったかのように、一瞬で破壊して、戦場を瞬く間に火の海に変貌させた。


 水場で炎属性の魔法を使うということで、多少威力が落ちるかもしれないと、リーツは懸念していたが、圧倒的な火力があったため、無問題だった。


 シャーロットに続くように、ほかの魔法兵たちも魔法を使用する。


 大型触媒機は数に限りがあるので、ほとんどが中型か小型の触媒機で魔法を使っていた。

 大型を使う者は、魔法兵の中でも実力のある者に限られている。

 だが、今回は新入りのムーシャも、大型の触媒機を使っていた。

 魔法兵たちの采配は、シャーロットに任せているので、リーツは文句を言えなかったが、若干心配であった。

 たまに凄い威力が出るというが、まだ未熟なムーシャは失敗することもある。大型触媒機一台を無駄にする余裕は、ハッキリ言ってない。


 祈るようにムーシャが魔法を使うのをリーツは見ていた。


 彼の心配は一瞬で払拭される。


 新入りのムーシャが使ったヘル・ファイアが、シャーロットに負けず劣らずの威力で戦場を蹂躙した。


 どうやら当たりが出たようだ。


 魔法を使用した本人も驚いている。恐らく、今まで使った魔法の中で、一番威力が高かったのだろう。


 嬉しい誤算であった。ただでさえシャーロットの魔法を受けて、大きく相手兵士たちは動揺しているところ、さらにムーシャの魔法を受けたのだ。動揺はさらに深まるだろう。


 相手兵士たちは、一気に逃げ出した。指揮官が撤退を指示している様子はなく、全く統率の取れていない形で、逃げ出していった。

 恐らく、あまりの状況に恐怖した敵兵たちが、戦意を完全に喪失して命令を無視し、逃げだして行ったのだろう。


 敵兵は間違いなく統率の取れた軍隊であったが、悲惨な戦場の光景は、間違いなく兵たちの心をへし折っていた。焼かれて味方達が、もがき苦しみながら死ぬ姿は、かなりの精神的なダメージを与えていたようだ。


 敵が逃げていくのを見て、リーツは魔法兵たちの攻撃をストップさせ、そして騎馬兵たちに出撃を命じた。


 クラマント、ブラッハムらが一斉に逃亡する兵たちを討ち取りに出陣する。


 敵軍に出来るだけ大きなダメージを与えるため、逃げる兵士たちを追撃する必要がある。

 全く統率の取れていない形で、散り散りに逃げていく敵を追撃するのは容易な事であった。


 確実に一人一人と討ち取っていく。


 ブラッハム隊は、後方で撤退を開始していた敵将の姿を確認すると、一気に突撃した。


 敵兵は足並みも乱れていたため、馬に乗っているブラッハム隊はあっさりと追い付くことが出来た。


 少なくなっていた将を護衛するための兵を蹴散らした後、敵将とブラッハムが一騎打ちを始める。


「その首頂くぜ!!」


 大声で戦いを挑むブラッハムに必死で応戦する敵将。

 ブラッハムの実力はかなり高く、リーツと戦った時のような、馬鹿すぎるポカはしなくなっていたので、一方的な戦いとなり、苦戦することなく敵将を討ち取った。


 初戦はカナレ軍の圧勝に終わった。



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