第163話 クライツとレン

 祝宴が無事終わり各領主たちが帰ったあと、少しだけ休憩を取ることにした。


 戦から帰って休む間もなかったので、結構疲れが溜まっていた。城には浴場があるので、ゆっくりと浸かって疲れをとっていた。


 風呂から上がって、自室でゆったりしていると、


「兄上! 一緒に剣の稽古をしよう!」


 といきなり子供の声が響き渡った。


 確認してみると、弟であるクライツが木剣を持って部屋に入ってきていた。


 弟のクライツは、現在6歳。順調に成長して、かなりのわんぱく小僧になっている。

 金髪で若干顔立ちが父上に似ている。子供なので、父上のような威圧感があるわけではないが。


「訓練なんて疲れるから駄目だよ。兄上は私と一緒にお勉強するんだから」


 後ろから、妹のレンがそう言った。

 レンは黒髪で、容姿は私と結構似ている。

 精神的にはクライツより少し大人びていた。


 レンとクライツは双子であるが、あまり似てはいなかった。二卵性双生児だからなのだろう。


「稽古するんだ!」

「勉強するの!」


 言い争いの喧嘩をし始めた。私は慌てて二人を止める。


「どっちもするから喧嘩はするな」

「「本当!?」」


 嬉しそうな表情を二人は浮かべる。こうなると、休養は取り切れないが仕方ないか。


「最初はクライツが言ってきたから稽古をしようか」

「やったー!」

「えー」


 両手をあげて喜ぶクライツと、ほほを膨らませるレン。


 武勇が高いクライツと、知略が高いレン。


 どちらも、自分の得意なことに興味を示していた。


 6歳なので、どちらもまだまだ発展途上だが、順調に特技を伸ばしていた。


 三人で訓練場に向かう。


 木剣を持ち、剣の打ち合いをすることにした。レンは少し遠くから座って見学していた。


「よし、じゃあ行くよ!」

「いつでも来い」


 一応私も才能はないとはいえ、リーツから剣の手ほどきを受けている。才能豊かなクライツ相手とはいえ、六歳児に負けるということはない。


 と思っていたが、思ったより危ない勝負になる。動きが速いし、力も六歳児とは思えないほど強い。

 今回はなんとか勝利したが、あと1年後くらいには負けてしまうかもしれない。


「負けた〜やっぱ兄上は凄い!」

「クライツも強かったよ。もうちょっとで抜かれるかもな」


 そう言って、私はクライツの頭を撫でた。

 弟と言うより子供という感覚で、二人のことは見ていた。前世で35歳生きているから、実際の年齢はそのくらい離れているからな。


「俺は兄上よりも、リーツさんよりも、誰よりも強くなるんだ。そして、兄上のために頑張って戦う戦士になるんだ」


 クライツは拳を握りしめてそう宣言した。六歳にして、ここまで将来の夢を明確に持っているのは素直にすごいと思っている。

 クライツは野心が高いが、今のところはそんな感じには見えていない。まあ、まだ六歳だからな。


「よし、じゃあもう一回勝負だ!」


 その後も、何度か木剣で稽古をする。


「はい、もう終わり! 勉強するよ!」


 長く待たされて痺れを切らしたレンが、そう言った。


 かなり疲れていたので、このタイミングで終わるのはありがたかった。


「えー、こんな中途半端に終われないぞ!」


 クライツはまだまだ体力が有り余っているようだ。


「レンも一緒に稽古すればいい」

「剣を振り回すなんて怖くて無理! もうだいぶ待ったから今度は私の番でしょ!」

「そうだ。ワガママはいけないぞクライツ」

「むー」


 クライツは渋々納得した。


 城に戻り、書物室に向かう。中には当然のごとくロセルがいた。


「あ、ロセル兄も勉強か?」

「……」


 クライツが声をかけたが、集中して本を読んでいるロセルには、周りの声が聞こえていないようだ。


「一緒に勉強はだめそうだねー。ロセル兄こうなったらしばらく動かないから」


 残念そうにレンが言った。

 クライツとレンは、ロセルに結構遊んでもらっている。特にレンはよく懐いていた。


 ロセルはそっとしておいて、三人で勉強を開始する。


 レンと一緒に勉強するのは久しぶりだが、ロセルと一緒によく勉強しているようで、驚くほど知識を持っていた。六歳児とは思えないくらいだった。


 一方クライツは、あまり勉強していなかったのか、レンに比べると遅れていた。


 勉強の進み具合に、だいぶ差があったので一緒に教えるのは若干難しかったが、何とかこなした。


「……もう、勉強、無理」


 頭の限界を迎えたクライツが、机に突っ伏した。考えすぎて頭が茹ったようだ。


「ははは、クライツはもっと勉強しないとな。しかし、レンはすごいな」

「ロセル兄に教えてもらったの。クライツが考えなしだから、その分私が賢くならないといけないからね」


 いたずらな笑みをレンは浮かべた。


 将来のクライツは、レンに手玉に取られそうだと思った。

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