第162話 領主たち

 数日後、各領主たちがカナレ城へとやってきた。


 トルベキスタから、プレイド家、クメールからオルスロー家がやってきた。

 リシアの姿もあった。彼女は私の姿を見た瞬間、嬉しそうな表情で駆けよってきた。


 そして、私に抱き着いてきた。


「良かったです、アルス様……とても心配しておりました……」


 リシアは少し肩を震わせていた。

 抱き着かれた瞬間は慌てたが、リシアの肩の震えを感じて冷静さを取り戻す。


「心配をかけさせて申し訳ありません。無事戻ってまいりました」


 リシアの背中に手をまわして、安心させるように言った。

 安心したのかリシアの震えは止まった。


 リシアは私から離れた後、私以外に聞こえないような小声で呟いた。


「しかし、こんなに早くカナレ郡長になるとは、やはりアルス様は見込んだ通りのお方ですわ」


 いつもの甘い声ではなく、冷静沈着な声だった。


「ふふふ、このまま行けば、ミーシアンの総督までなられるかもしれませんわ」

「そ、総督? 流石にそれは……」


 総督になるとなったら、クランか跡継ぎのレングを蹴落とす必要がある。流石にそのつもりはない。このカナレ郡をちゃんと発展させていって、強い領地にするのが当面の目標だ。


「冗談ですよ」


 ニコニコしながらリシアは言ったが、冗談に聞こえないのは私だけだろうか。リシアが野心の高い娘であると、久しぶりに実感した。


 トルベキスタ領主であるハマンドと、クメール領主であるクラルが私の下へとやってきた。


 近くにやってきて、ハマンドとクラルは跪き、首を垂れた。


「カナレ郡長アルス・ローベント様に忠誠を誓います」


 二人ともそう宣言をした。


「頭を上げて下さい。私はまだ未熟者ですから、郡長になったとはいえ、分からぬことも多いです。協力してカナレ郡をより良い領地にしていきましょう」


 私はそう返答すると、二人は頭を上げた。


 パッと見た限りでは、ハマンドは私に対して不満はないようだが、クラルは不満があるというわけではないが、値踏みするような目線を向けてきている。

 まだ、私が郡長として的確な人材なのか、測り損ねているのだろう。


 まだ、心の底から忠誠を誓っているというわけではなさそうだ。反感をかわれてはいないようなので、これから領主としてきちんと働けるところを見せていけば、認めてくれるだろうと思う。


 祝宴が始まり、賑やかなムードになった。

 そこでハマンドの口から、リシアとの婚約の話題が出てきた。


「戦が終わったらリシアとの婚約を進めるという話でしたが……」

「そうでしたね。しかし、まだ戦は終わったわけではないですので、近いうちにアルカンテス攻めが始まるでしょう。それが終わったらと私は思っています」


 私は自分の考えを伝えた。


「そ、そうですね。戦が終わる前という話でしたので、今するのは違いますわね」


 リシアは賛同した。残念そうな、しかし、どこかほっとしたような、そんな表情を浮かべていた。


 祝宴は無事に終わり、翌日、領主たちは自分たちの屋敷へと戻っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る