第161話 飛行船

 至急決める必要のあることは決めたので、今日の話し合いは一旦終了となった。

 細かい内政の方針などは、あとで何度か話し合って決めるつもりだ。


「まずは、領主様たちを城に招待したので、祝宴の準備を行うのが先決です。恐らく来る可能性が高いでしょうから」

「そうだな。早速、準備をさせよう」


 リーツの提案を私は受け入れた。

 書状を出したばかりなので返信は来ていないが、来ないという返答はしてこないだろうと思う。若輩である私がカナレ郡長になることを気に入らないかもしれないが、クランの判断による異動なので、一介の領主が異を唱えるのは難しいだろう。少なくとも、トルベキスタ領主であるハマンド・プレイドは来るだろう。

 娘のリシアと私は婚約関係にあるからな。仮に来ないにしても、準備をしておくに越したことはない。


 ……そう言えばリシアはどうしようか。

 戦が終わったら結婚する約束をしていた。結婚自体には何の不満もないけれど、戦はまだ完全には終わっていない。圧倒的な優位な状況に立ってはいるが、まだ敵の本拠地アルカンテスは落とせていない。近いうちにまた戦があるだろう。

 個人的に完全に戦が終わってから、結婚するべきだと思うのだが、向こうがどう考えるかだな。ハマンドと一緒に来る可能性が高いので、その時少し話した方がいいだろう。


 祝宴の準備を進めさせた数日後、トルベキスタ領主、ハマンド・プレイドと、クメール領主、クラル・オルスローから、カナレ城へ行くという書状が届いた。


 その日、祝宴の準備を行っていると、


「アルス様、シン・セイマーロが、アルス様に会いたいと城に来ていますが、お会いになりますか?」


 リーツがそう報告してきた。


 シン・セイマーロ……一瞬分からなかったが、すぐ思い出した。帝都であった、飛行船適性の高い男だ。

 カナレ郡長になったら、金銭的に援助をして、飛行船の開発に力を貸すという約束をしていたのだった。


「アルス様、飛行船の開発に投資をするおつもりですか?」


 リーツが尋ねてきた。


「約束だからな」

「そうですね、約束は守らないといけませんが……しかし、カナレの財政状況は正直そんなに良くはないんですよね……特に今は戦があったばかりですから……ここはシンには時間を貰った方がいいと思います」


 確かにカナレは戦もあったからか、思ったより金にあまり余裕がない。それでもランベルクよりは、余裕はあるのだが。


 しかし、ここで待たせてしまうとシンはどう思うだろうか。元々、あまり辛抱強いタイプにも見えない。

 それに、飛行船というものは少しでも早く作ってもらいたい。仮に一番先に飛行船を開発したのが、ローベント家になった場合、相当メリットがありそうだ。


「飛行船は重要だし、なるべく早く開発してほしいんだが……」

「そうですね……シンが開発にどれくらいの資金を要求するか分かりませんが、要求された金額を全て払うのではなく、3分の1くらいを最初に払って、残りは後から払う、という形にすればどうでしょうか。全額無くても、当面は開発は出来るでしょう」

「なるほど……よし、それでいくか。シンを連れて来てくれ」

「かしこまりました」


 しばらく経過して、リーツがシンを連れてきた。

 シンは上機嫌そうな表情で話しかけてきた。


「いやー、凄いな! 本当に郡長になれるなんて、正直思ってへんかったわ! アルス様に付いてきた甲斐があったちゅうもんやな!」


 どうやら私がカナレ郡長になれるか、半信半疑でいたようだ。


「それで開発費用払ってくれるやろ? 飛行船の理論を再確認して、やっぱりこれなら飛べるって確信をえとったところなんや。金さえあれば、絶対作ってみせる」


 シンは自信満々な表情でそう言った。


「実は、カナレ郡長になったは良いが、あまり財政状況に余裕がないんだ」

「な、なんやて!? じゃあ、払えへんのか!?」

「そうは言ってない。まずは必要な額の三分の一を援助しよう。余裕が出来次第、援助を再開する」

「む、むう。余裕は出来るんか?」

「何とかする」


 シンは少し不満げな表情を浮かべている。


「分かった。カナレ郡長にも約束通りなってくれたんや。アルス様を信じるで」


 私の目をまっすぐに見据えて、シンは宣言した。


 その後、必要な額を聞く。中々の額で、一括で払うのは確かに難しい額だったが、三分の一なら何とか払えた。

 金を払う前に、リーツが用意した契約書をシンとかわした。作成した飛行船の所有権は、ローベント家が持つと明記された契約書である。ほかにも技術の流出を防ぐための条項だったり、ローベント家の利益を確保するための条項がいくつか書いてある。


 シンは作ることと飛ばしてみることに興味があるようで、自分に操縦を任せてくれるのなら、所有権は要らないといい、契約書に血印を交わした


 シンの飛行船開発がスタートした。

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