第160話 話し合い
「まず、ランベルクの運営をどうするか決めよう。私は領主としてこの城にいる必要があるから、誰か信頼できる者にランベルクを任せたい」
私が話を切り出すと、早速ロセルが、
「リーツ先生に任せるのが一番いいと思うけどな」
そう意見した。
その瞬間、リーツはドキッとしたような表情を浮かべた。
リーツの貢献は誰もが知っているところだ。今となってはマルカ人と蔑む者もおらず、皆うんうんと頷いていた。
私としてリーツにはそばにいて欲しいのだが、仕方ないか。一番信頼できるのはリーツだというのは間違いないしな。
チラリとリーツの顔色をうかがってみると、嬉しそうな表情ではなく、何やら言いたいことを我慢しているような、そんな表情である。やりたくないのだろうか? 本人の意思も聞いておきたい。
「リーツは特に異存ないか?」
「……アルス様が言うのでしたら、異存はないです」
捨てられた子犬のような目で私を見ながら、リーツは言った。
明らかに行きたくない様子だ。
これまでローベント家に多大な貢献をしてくれたリーツだけに、ここで無理矢理嫌な事をやらせたくはなかった。
「リーツ、本心を言ってくれないか?」
リーツは少し俯いた後、顔を上げて、決心したような表情で本心を語ってきた。
「出来ればアルス様のお傍でお仕えしたいです」
感情をこめてリーツは言った。
リーツに傍にいて欲しいのは私も一緒だし、嫌なら一緒にカナレ城にいてもらおう。
「私はリーツの意見を尊重したいと思う」
「そっかー、でも、リーツ先生以外だと、誰がいいんだろ……」
ロセルが呟くとその場にいる全員が考え込んだ。
「一番、戦功を挙げた人にランベルクを運営してもらうとか、どうでしょうか?」
リーツが意見をした。
戦功を挙げたもの……というと、全員シャーロットに一度視線を向け、そして微妙な表情をした。
間違いなく一番戦功を挙げたのはシャーロットだ。彼女は一個人としてはクラン軍全員の中でも、一番活躍したと言ってもいいだろう。
しかし、領地経営となると……うーん、彼女が領主として上手くやっている姿をあまり想像できない。
私たちの反応の意味を察したシャーロットは、不満げに頬を膨らませる。
「むかー。わたしに問題があるとでも言うの?」
「そ、そうじゃないが……もっと適任がいるかもと思っただけだ」
慌ててフォローする。
「無理と思われるのは心外。あんなん椅子に座ってればいいだけでしょ」
「それは馬鹿にしすぎだ」
やはりシャーロットに、ランベルクは任せられない。
もっとしっかりしたものがいいだろう。
「ロセルが適任かもしれませんね。まだ若いですが、頭も良いし、この度の戦いで精神的にもしっかりしてきましたし」
再びリーツが意見を言うと、ロセルが、
「お、俺には無理だよ!」
全力で拒否の姿勢を見せた。
「領地経営なんて俺には絶対無理無理。勉強する時間も減っちゃうしさ」
かなりやりたくなさそうだ。ロセルも活躍したし、やりたくないというのにやらせない方がいいかもな。
となると残りは……
「アタシがやるしかないようだね。昔は領主だったこともあるし、ランベルクくらいなら問題ないよ」
ミレーユが腕組みしながらそう言った。
「あ、それいいかも、師匠ならちゃんとやってくれるよ」
と弟子であるロセルは好意的な反応を示したが、私はやめておいた方がいいという気持ちが強かった。
ミレーユの野心の高さはやばい。はっきり言って信頼できない。確かに能力的にランベルクを治めるくらいはできるとは思うが。
「僕もミレーユで良いと思いますよ」
意外にもリーツも賛成した。リーツはミレーユの事を認めてはいても信用はしていないと思っていたので、意外だった。
ロセルとリーツが言うのなら、ミレーユに任せるのもありかもしれないが……しかし、野心の高さがなぁ……、私が悩んでいると、リーツが耳打ちをしてきた。
「大丈夫ですアルス様。ローベント家は領民に慕われていたので、ランベルクを任せたからと言って裏切るのは難しいですよ。それに、シャドーも家臣になったため使えますし」
どうやらリーツはミレーユを信頼しているわけではなく、裏切りを防ぐことが出来ると思っているようだった。
確かにシャドーの団員を一人ミレーユの下に付けて、動きを報告させれば裏切るのは難しいだろう。
リーツの言葉を聞いて不安は取れた。
「それではミレーユにランベルクを任せよう。皆、異存はないな?」
反対する者はいなかった。ランベルクはミレーユに任せることで決定した。
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