第154話 捕縛
予定通り作戦は実行された。
現場の指揮官は、ルメイルが担当になったため、私も家臣たちと一緒に来ていた。
本当に敵兵が潜んでいるかを事前に確認するために、密偵を出せば、勘づかれて逃げられる可能性もあったので、調べずに攻撃することになった。
仮に外れていれば、無駄に魔力水を消費することになるが、資源自体は豊富にあるため、そこまで痛い損害にはならない。
前世日本で生きていた時の感覚が、まだ残っている私は、緑豊かな自然を焼き尽くしていいのかと、罪悪感を感じたが、この世界の人たちは特にそんなこと感じたりはしないようだ。
敵が潜んでいる可能性の高い森の周辺に、大型の触媒機を複数設置した。
天候は晴れで、空気も乾燥しているような気がする。
これならよく燃えてくれそうだ。
触媒機の準備を完了させ、ルメイルが手を上げて、魔法を使うように合図をする。
魔法兵たちが同時に、ファイアーストームという強力な炎属性の魔法を放った。
炎の渦が複数発生し、森を焼き尽くしていく。
一際大きな炎の渦があるが、あれは恐らくシャーロットの魔法だろう。
さて、これだけ凄まじい炎なら、森の中にいる場合、全員消し炭になってそうだが、何人かは上手く抜け出す可能性もあるので、そう言う者も逃がさないために、森の周辺には包囲網を敷いていた。炎が当たらないよう、森から少し離れた場所に兵を配置している。
もし仮にトーマスが出てきたら、捕らえろと言ってある。トーマスの見た目は、クランが全軍に伝えた。
ミレーユは数年会っていないので、今の見た目は知らないようだ。実際、今のトーマスにはクランの話だと髭が生えているそうだが、ミレーユは髭の生えたトーマスを知らなかった。
私は少し離れた位置から、森が焼ける様子を見ていた。
まだ中に人がいたのか分からないが、仮にいた場合、地獄のような目に遭っているだろうと断言できるくらいの業火だった。しばらくすると、自軍に動きが出る。
どうやら、何人か抜けてきた兵士がいるようだ。
命からがら逃げてきた兵にとどめを刺すという、何とも無慈悲な光景が私の目の前に広がっていた。
目を背けたいという思いに駆られるが、ローベント家の当主として、情けない姿は見せられないと、戦の様子を見守っていた。
そして、
「報告します! 敵将トーマス・グランジオンを捕らえました!」
そう報告があった。
「本当か! 連れて来い!」
ルメイルが急いでそう命令する。
縄で縛られた、髭面の坊主の男が連れてこられた。
長身でごつい男だ。ミレーユと目つきと鼻の形が似ていた。姉弟だと言われれば、頷けるくらいは似ていた。
「ミレーユ、こいつはお前の弟か?」
ルメイルが一応尋ねた。
「間違いないねぇ。久しぶり、愚弟」
「……」
トーマスは無言でミレーユを睨み付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます