第153話 火攻め

「敵は以前師匠が模擬戦でやったのと、似たような作戦を取ろうとしているかもしれない」


 ロセルが呟いて、ミレーユが少しハッとしような表情を浮かべる。


「なるほど、確かにその可能性はありそうだねぇ。ガキの頃何度か奴には、似たようなイタズラをした記憶があるし、それを覚えてたのかもしれないねぇ」


 私も敵が取っているかもしれない作戦に気が付いた。


 要はわざと情報をこちらに流して、私たちを罠に嵌めようとしているのだろう。


 確かに模擬戦で、似たような戦術をミレーユが思いついて実行した記憶がある。


 姉弟というだけあって、思いつく作戦も似ているという事なのだろう。


 ロセルは具体的に敵の作戦を語った。


 偽の情報を流し、こちらを誘導して、そこで奇襲を仕掛けて、大損害を与え、戦況を五分とはいかずとも、絶対的不利な状況を何とか6対4くらいに戻す。


 6対4でも敵の不利は変わりないが、絶望的な状況ではなくなる。戦術の立て方次第では、勝ち目は出てくるだろう。クランもそうなると出陣せざるを得なくなる。互角に近い状態だと、家臣たちに任せておけないだろうからな。


 とにかくこの作戦が決まってしまえば、ベルツド城は簡単には落とせなくなってしまう。確実に奇襲をしてくるとは、断言できないが、ケアをしながら行けば、そう簡単には決められないだろうし、今気づけて良かった。


 私はロセルとミレーユを連れて、クランと面会し、ロセルに敵の作戦を説明させた。


「……なるほど……私も少し妙だと思っていたのだ……確かに私の用意した密偵は、それなりに優秀な者たちだと聞いているが、こんなにあっさり大事な情報を流すだろうかと……

 敵がその作戦をしてくるかは、まだ確定ではないが、可能性としては大いに考えられるだろう。よくぞ話してくれた」


 ロセルはクランに感謝されて、少し照れ臭そうにしていた。


 そのあと、具体的に敵はどこから奇襲をかけてくるだろうか、ロセルに質問をした。


 地図を見ながらロセルは説明をした。


 結構大きめの森があって、そこに兵を隠している可能性が高いという。


「森に兵を潜めているか……なるほど……ならば火攻めをすると効果的だろう」

「ええ、敵の逃げ場を防いで、炎魔法で森を焼き払います」

「敵将のトーマスはなるべく生け捕りにしたいがな……優秀な者を殺すのは惜しい。しかし、取り逃がして、ベルツド城に戻られるのが、一番痛い」


 クランはそう言って、若干悩んだが、それでも決断をした。


「火攻めをしよう。敵が潜んでいる森を焼き払うのだ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る