第151話 敵の狙い

 それから数日後、自軍が順調に出陣の準備を固めていたら、敵の情報を集めていた偵察が、慌てた様子で報告をしに来た。


 偵察はクランの元に報告に行き、気になったので、私も内容を聞きに行った。


「敵軍が妙な動きを始めました。何やら見たことのない巨大な器具を準備しているようです」

「何だと?」


 それを聞いてクランは渋い表情をする。


 巨大な器具、それを聞いて思い浮かべるのは、この前、使者の言っていたベルツドで開発されたという、秘密兵器の話だ。


 まさか嘘ではなく本当だったのか?


 そう思ったが、すぐ考え直す。


 この兵器も嘘である可能性が高い。

 実際は全然兵器でない物を、あたかも兵器であるかのように準備しているだけに過ぎないだろう。


 ただ、実際に準備までしているところを見せられると、もうちょっと慎重に調べてから行かないとまずいかもしれない。


 予想が外れて、本当に例の兵器である可能性もあるし、都市を破壊するほどの威力はなくとも、かなり強力な兵器である可能性がある。


 クランはどう判断するだろうか。


「これも嘘である可能性が高い……が、正体を突き詰めないと、家臣たちが怖がって、士気が上がらん可能性があるな……兵器の正体を調べ上げるには、少々時間がかかる。敵の狙いは時間稼ぎか。無駄な事を。今更、ちょっと時間を稼いだところで、何の効果もなさない」


 クランは兵器の正体を調べるつもりのようだ。兵器は外に出ているようだから、何とかなりそうだが、時間はかかるかもしれない。


 敵の狙いが時間稼ぎだというのなら、それはそれで解せないところもある。クランの言う通り、今更時間稼ぎをして、どれほど意味があるというのだろうか。


 本当に兵器の開発が進んでいて、開発が完了するまで粘るとか? うーん、可能性はゼロじゃないが、仮にそうなら私ならこの方法は取らないだろうな。時間をちょっと稼ぐくらいなら、ほかに方法はあると思うし。


 じゃあ、時間稼ぎのほかに目的があるのだろうか?


 正直考えても分からないな。


 クランは兵器について調べ上げるようだし、しばらくは情報を待つしかなさそうだ。


 情報を調べるのには、シャドー以外の密偵を使った。シャドーはクランの身を守るという重要な任務があるため、使う事が出来なかった。


 数日後、意外と早く密偵が帰ってきた。


 その報告を私は直接聞かなかったが、クランが報告を聞いた後、家臣を集めて、密偵の報告を話した。


「例の兵器とやらは、やはり真っ赤な嘘のようだ。敵は兵器に注目させて、時間を稼いでいるうちに、こっそり魔法罠を仕掛けたりして、防衛力を高めようとしていたようだ。密偵が情報を掴むのに失敗していたら、少し厄介なことになっていたかもしれない」


 なるほど、あれは目くらましだったのか。

 確かに事前に秘密兵器の話をされて、それっぽい兵器を用意していれば、こちらはそれに注目する。

 その間に、罠を仕掛けるなり、本当にやりたいことをしたというのか。


「敵の目論見は分かった。ベルツドは包囲で落とすつもりだから、罠を仕掛けられようと落とせるだろうが、無駄な時間がかかってしまう恐れがある。罠を仕掛けられる前に出撃して、敵の目論見を打ち砕いてやろう」



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