第150話 狙い

「いいですか。今の話はハッタリです」


 ロビンソンはそう言いきったが、ほとんどの者が煮え切らないといった表情を浮かべている。


 確かにハッタリである可能性は高い。しかし、万が一があるかもしれない。そんな不安を抱えた表情であった。


「都市を破壊したくないから使わなかったと言いましたが、そもそもそんなものがあるのなら、こちらにわざわざそのことを伝えずに、行軍して城に向かう我が軍に撃てばいいだけのはずです。都市を破壊するほどの攻撃が、軍勢に打ち込まれれば、大勢の兵がなるくなる上に、兵の士気も激減して、戦など出来なくなるはずです。その程度の事は名将トーマスならわかるはずでしょう」

「しかし、ビンスは敵兵と言っても、ミーシアン出身であることには変わりはなく、同胞を殺戮兵器で殺したくはないから、休戦を求めると仰っておりましたよ」

「市民を殺すことに戸惑いがあっても、兵士を殺すことに戸惑いはないでしょう。だったら、初めから戦わずに、降伏してるはずです」


 ロビンソンの言葉を真っ向から否定する者はいなかったが、それでも万が一という不安は拭えないようすだ。


 これは面倒なことになったな。クランと言えど家臣の言葉を完全に無視は出来ない。このまま休戦すべきと意見が固まる可能性もある。


「ふん」


 私の近くにいたミレーユが鼻を鳴らした。

 貴族達はミレーユに注目する。


「こんなもんハッタリに決まってるだろ。いいかい、そんな強力な兵器はベルツドだけの力では絶対に作れない。ミーシアン州総督が動かなくては作れないだろう。ベルツドで開発が行われたとしても、それは前ミーシアン州総督の働きかけがあったからであることは疑いようがない。そして、いくら秘密作ったとしても、息子であるクラン様がそれを知らないのは考え難い。そんな兵器の存在があると知っているのなら、ベルツド攻めの方法を変えてるだろう」


 ミレーユの言葉を聞いて、貴族たちは「それはそうだな……」と少し納得しかけている。


「とにかくクラン様を呼んで、話を聞けばいい。そんなものは絶対にないし、心配している奴は愚かだと断言すると思うよ」


 クランに断言させれば、確かに不安も解消するかもしれない。


 彼の言葉には、重みと説得力がある。家臣たちも尊敬している者は多いだろうし不安は解消されそうだ。


 その後、ロビンソンがクランを呼んできた。

 ミレーユの宣言通り、そんなものはない。信じるなと断言した。これで家臣たちの心配はほとんどなくなったようだ。


 ビンスの要求は却下され、城から出された。


 私は一安心したのだが、ミレーユとロセルが、何やら真剣な表情で話し合いをしている。


 気になったので、会話に混ざることにした。


「何を話しているんだ?」

「ん? ああ、さっきの使者が来た本当の目的がいまいちつかめなくてね」

「うん、あんなもの通るはずないし。それは向こうも分ってるだろうけど、どうしたもんだろうかと」


 確かにトーマスが知略に優れた人物なら、あれが最高の策ということはなさそうだな。

 ただ、今の策に本当の目的が隠されているかは、個人的に疑問に思った。


「今のはイチかバチかでやってみただけで、特に狙いはないんじゃないか? ほかに作戦はあるかもしれないけど」

「その可能性もあると思うけど……」

「それにしたって大雑把な作戦すぎる気がするが。まあ、考えすぎかもしれないが、考えるに越したことはないからね」


 その後も話し合ったが、敵の狙いはまだ分からなかった。



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