第149話 使者の話

 使者が来たという報告を耳にして、私は降伏を決めたのかと思った。


 クランもそう思ったのか、門前払いにはせず使者を通した。

 当然、敵の罠であるという警戒はした。暗殺に細心の注意を払って、厳しいボディチェックを実施する。使者は武器を隠し持ってはいなかったが、それでも細心の注意を払い、実際に会うのはクランではなく右腕のロビンソンが担当することになった。


 面会する場所はスターツ城の大広間だ。ロビンソンだけでなくほかの有力な貴族も同席している。私も端っこの方で、面会の様子を見ていた。


 大広間が開き、使者が中に入ってくる。下手な行動を起こさせないよう、使者のすぐそばには兵士が二人いた。


「カンセス様の命で参りました。ビンス・ロバンスと申します」


 頭頂部が禿げている中年の男であった。鑑定してみると、統率、武勇は30台と低いが、知略72、政治79と高い。完全に文官という感じのステータスだ。


「私はクラン様の代理のロビンソンです。クラン様は少々体調を崩しておられますので、私が代わりにお話をお聞きいたしましょう」


 ロビンソンは嘘をついた。暗殺するかもしれないからと正直は言えないからだろう。


「分かりました。それでは本題に入らせていただきます。私は休戦のお願いをするため、参りました」


 ビンスが休戦と発言して、場がざわついた。


 この期に及んで休戦などあるものかと、ヤジを飛ばすものもいた。


 降伏の使者としてきて、その条件をなるべくカンセスにとっていいものにするために、来ているのだと思っていたため、私は意外に思った。


 どちらにしろ休戦などというのは、受け入れることのできる話ではない。断るだろう。


「休戦……ですか。申し訳ありませんが、いかなる条件であろうともそれは受け入れられません。お帰り下さい」


 ロビンソンは丁寧にそう言ったが、ほかの貴族たちは帰れ帰れとわめいている。


「話は最後までお聞きいただきたい。こちらにはまだ使っていない秘密兵器がございます」


 秘密兵器。

 いきなり妙なことを言い出した。


「秘密兵器とは?」

「ベルツド城では、以前から魔法兵器の開発を行っておりました。我々が開発したのは、超大型の触媒器と都市を一撃で粉砕できるほどの魔法です。その気になればこのスターツ城を破壊することが可能です。出来れば私たちもこれを使いたくはありません」


 ハッタリだと聞いた瞬間に思った。

 本当ならクランごとこの城を吹き飛ばせるだろうが、そんなものがあるのならもっと早く使っているだろう。


「嘘ですね。そのような兵器の存在は聞いたことありません。あったのならなぜ今まで使っていないのでしょうか?」


 ロビンソンは私が思ったことを言った。


 周りの貴族たちも、ロビンソンの意見に賛同する。


 しかしビンスも引き下がらない。


「大量に人を殺すような兵器ですので、やすやすとは使えませんよ。それこそ今のように追い詰められた時以外では、使えませんよ」


 それは一理あるが、そんな物は都合よくあるとはやはり思えない。


 ただ、絶対にないとは断言は出来ないし、面倒なことを言ってきたと私は思った。


 その後もビンスは話を続ける。

 中々ビンスは弁舌に長けており、嘘だと断定していた貴族たちが、徐々にもしかしたら本当かもしれないという空気になって来た。


 このまましゃべらせるのはまずいとロビンソンは判断したのか、一旦ビンスとの面会を打ち切り退出させた。

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