第148話 使者

 数日経過して、気温も上がり雪も解け始めてきたので、出陣の準備を始めていた。


 兵たちは休養でなまった体をほぐすため、訓練を始めていた。


 軍議も行われ、ベルツド城をどう落とすかも話し合われ、最終的に包囲で落とすことが決定した。


 包囲は時間がかかるが、ベルツドにもはや援軍は来れないし、ベルツド城もスターツ城に負けず劣らず堅牢な城である。兵をいたずらに失う可能性が少ない作戦が包囲なので、この状況では得策だろう。


 クランは今回の戦では、出陣せず、城から指示を送るようだ。


 この状況で勝敗がひっくり返るとしたら、クラン自身が殺されることだけだ。ここで不用意に城の外に出るのは暗殺のリスクを高めるので、城に残ることに決めたようだ。


 暗殺を防ぐため、シャドーに護衛してほしいと頼まれた。この前、ファムとベンに助けられたことが、印象に残っているのだろう。断る選択肢はないため二つ返事で受けた。


 クラン暗殺のリスクもほぼゼロにできて、戦力はこちらの方が圧倒的有利な状態。


 もはや勝ちは確定しているかのような感じだが、私はまだ不安を感じていた。


 この前、ミレーユが弟が何か仕掛けてくるかもしれないと、言ったことが心に引っかかっていた。


 何か策を使ってくるのだろうか。


 ミレーユにどんな策を使ってくる可能性が高いかと尋ねると、


「どんなと言われても、今の状況でこう来るというのは断言できないね。やろうと思えば色々やれる状況だし、どれでくるかは流石に分からん」


 そう返答した。


「色々やれるのかこの状況で」

「圧倒的な有利なこっちの状況だけど、結局大将が討ち取られれば負けだからね。大将を討ち取るための策は結構ある。嘘の降伏をしてみるだとか、何とかして戦場に引きずりだすような事をやるだとか。ただ、大将もそれを分かってて最大限の警戒をしているようだし、成功させるのはほぼ無理だと思うね」

「……ってことは、この状況で戦況を覆すのはやっぱ無理だってことか? この前は、浮かれるなと言っていたが……」

「私の弟は、たまに人には思いつかんような事を思いつく奴だからねぇ。アタシでも思いつかんような、奇策を考えているかもしれない。どっちにしろ相手の動きを見ないと、まだ分かんないね」


 ミレーユでも思いつかないような作戦を考えつくことがあるのか。やはり名将ではあるようだな。


 その話をした、ちょうどその日、ベルツド郡長カンセスの使者を名乗る者が、スターツ城までやってきた。



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