第146話 雪

 スターツ城を陥落させた後、かなり寒くなってきたので、冬が過ぎるまで城に留まることになった。


 防壁の応急処置も終了し、クランは冬が過ぎるまで、全員休息するように命じた。


 ただ、スターツ城に全軍は入りきらないので、外にテントを張って野営している兵士たちもいた。あれで休息が取れるのか少し心配である。


 ちなみに私はスターツ城の部屋を借りて、そこで寝泊まりをしていた。結構広い部屋を借りれたので、家臣たちも一緒に寝泊まりをしていた。


 炎の魔力石を利用した暖房器具が設置されており、快適に過ごす事が出来た。



 とある日の朝。



「起きろーアルス様、起きろー」


 ゆさゆさと、揺らされながら私は目覚めた。


 今の声は……シャーロットの声だな……


 珍しい。寝起きが悪く、いつも私やリーツが朝食時になると起こしているのだが。


「珍しいな今日は自分で起きたのか?」

「そんなことはどうでもいいから、外に来る!」


 手を引かれて、起こされた。

 シャーロットは私の手を引いたまま、部屋の外に向かって歩いていく。

 いったい何のつもりかと思うが、寝起きで上手く抵抗できない。されるがまま、シャーロット一緒に外に出た。


 部屋の外に出た瞬間、とてつもない寒さが体を襲った。

 中は、暖房器具のおかげで暖かったが、外は極寒であった。ここまで寒い日は、この世界に転生してから初めてだと思うくらいの寒さだ。

 厚着をする間もなく、外に連れ出されたので、あまりの寒さに凍える。


「さ、寒い。ふ、服」

「見てみて、外!」


 完全に私を無視して、スターツ城の中庭の方を指さした。

 何だと思いながら、中庭を見ると真っ白景色が。

 どうやら雪が降り積もっているようである。


 今年初の積雪である。


 シャーロットは、毎年雪が降りつもるとはしゃぎまわるくらい雪が好きだったことを、今思い出した。子供っぽい奴である。


 私も雪が積もった光景を見るのは好きではあるのだが、今は寒すぎてそれどころではない。というか雪を見てさらに寒くなってきた。


「わたし雪好きなんだよねー。よーし、外に出よう」


 そう言ったので、私は全力で止める。


「ま、待て! 今の格好で外に出たら寒くて死ぬ! 厚着させてくれ!」

「……よく見たら薄着じゃん。何でそんな恰好してんの? そりゃ寒いよ」

「お前のせいだろ……」

「早く着てきて。わたしは中庭に降りてるから」


 シャーロットの言葉に呆れながら、私は自室に戻って厚着をした。このまま二度寝しようかと思ったが、家臣の頼みなので中庭に降りた。


 中庭にはシャーロット以外にも人がいた。若い連中が雪遊びをしているようだ。初めて雪が積もったので、いつも以上にはしゃいでいるのかもしれない。


「あ、アルス様遅いぞー。今日は何を作ろうかなー。アルス様も手伝って」


 そのあと、シャーロットに雪遊びの手伝いをさせられた。

 猫とか犬とか色々雪像を作った。傍から見たら何を作っているか分からないだろうけどな。邪教の像でも作ったのかと疑われる恐れすらある。


「お腹減ってきた。ご飯食べに行く」


 と言ってシャーロットは城の中に戻った。

 何とも自由な奴だ。私も叩き起こされてから、何も食べておらず空腹だったため、一緒に朝食を食べに行った。


 朝食が終わったら、ゆっくりできると思ったら、再び外に連れ出された。リーツやロセルも一緒に外に出て、以前冬の時期にシャーロットに教えた雪合戦をすることになった。


 最初は少人数でやってたら、そのうち見ていたほかの人たちが参加し始めて、大人数になり、何かやたら本格的な雪合戦になった。


 さっきまで本物の戦をしていた者たちが、雪合戦をしているので迫力のある戦いになっていた。


 私は疲れたので、早々に見学する側に回っていた。


 同じく雪合戦には参加していないミレーユと一緒に、様子を眺める。


「皆、のんきだねー。確実に勝ったと思っているんだろうなぁ」


 ミレーユが呟いた。


「……確かにのんきだが……戦自体はもう絶対的に有利なのは間違いないだろ?」

「そうだねぇ。ただアタシの弟が勝つのを諦めているとは思わないし、何かやって来るかもしれない。気を抜いちゃいけないよ」


 弟、トーマスの事か。

 前はクランを奇襲することに失敗したが、今度も何か狙ってくるかもしれない。

 確かにミレーユの言う通り油断は禁物であるが……


「お前はそう言いながら、なぜ酒を飲んでいるんだ」

「え? 酒は飲まないとね。明日大戦があろうと飲むよアタシは」


 朝っぱらから呑んだくれるという、油断しているとしか思えない行動を取っているミレーユに、私は心底呆れた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る