第145話 最後の軍議

 ベルツド城の軍議の間。


 郡長のカンセスとトーマス、その他重臣たちが、暗い表情で軍議をしていた。


 スターツ城の戦いで失った兵数は多く、さらに重要な拠点であるスターツ城を奪われた。


 スターツ城が落とされたのは、致命的と言ってよかった。


 立地的に、スターツ城が落とされると、バサマークからのベルツドへ援軍が来れなくなる。

 ここまで追い詰められた場合、バサマークの援軍を頼るしか、戦況を巻き返す手段はないが、それが来れないとなると、このまま落城するのは目に見えていた。


 もはやこの状況で策を思いつく者はおらず、暗い沈黙が続いていた。


 その沈黙を破り、家臣の一人が口を開いた。


「……もはや、降伏なされるべきだと思います」


 それは、その場にいた家臣が考えていた事だった。


 徹底抗戦して負けた場合、確実に郡長であるカンセスは殺されるだろう。

 現状、カンセスの命を取らないという事を条件に、降伏をすれば郡長の立場が守られるかどうかはともかく、殺される可能性は低かった。


 徹底抗戦することになれば、無駄な死者が出ることにもなる。降伏の提案は、クラン側にも大きなメリットがあるため、受けてくる可能性は極めて高い。


 主君の命のため、その家臣は降伏を提案したのだ。


「ならん……降伏など……」


 カンセスは表情を歪ませる。

 彼にとってバサマークは義理の兄である。

 能力も高いと尊敬していた。自分の命惜しさに、降伏は出来ない。


「カンセス様……どうかご賢明な判断をお願いいたします!」

「私たちはカンセス様を失いたくはありません……それだけでなく、このままでは、ご子息も処罰されバンドル家自体が滅ぼされてしまいます。私の一族は代々バンドル家に仕えてきました。それだけは避けていただきたく存じます……」


 家臣たちが必死の思いでカンセスを説得する。

 カンセスも、自分の命だけならまだしも、我が子の命が危ないと思うと、降伏という手段を選ぶのか迷いが生じた。


 そんな時、沈黙を続けていたトーマスが口を開いた。


「……もう打つ手がないというのは、まだ分からないんじゃないかと思いますぜ」


 その場にいた全員がトーマスに視線を向けた。


 期待を込めた視線を向ける者もいれば、もう少しで説得できたのに余計な口を挟むなと、迷惑そうな視線を向ける者もいる。


「何か手段を思いついたか?」


 カンセスが質問をした。


「確実に成功する作戦ではないですが……上手くいけばスターツ城を取り返せるかも知れねーです」


 トーマスがそう言うと場がざわついた。


「倍以上の軍勢が守っているスターツ城を、どうやって落とすのだ?」


 作戦を淡々とトーマスは説明した。


 トーマスが語るとざわつきは大きくなっていく。

 とんでもなく無謀な策だが、トーマスならもしかしたら成功させるかもしれない。そんな作戦だったからだ。


「俺がこの作戦に失敗したら、カンセス様は降伏してください。まだあなたは生きてなきゃならない人材だ」


 カンセスは少し躊躇って頷いた。


 それを見た後、トーマスは起死回生の作戦を決行する準備を始めた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る