第143話 条件

「私はあなたと戦ったマルカ人を知っている」

「本当か? リーツ・ミューセスって名乗っていたが間違いないか?」

「ああ、間違いない」


 名前を名乗っていたようだ。別人の可能性もわずかにあったが、これで本人だと確定したな。


「リーツは私の家臣だ」

「何? お前の家臣だったのか? そ、それなら頼む! 奴と再戦させてくれ! あれが決着ってのは納得がいかねぇ!」


 自分から頼んできた。これなら上手くいきそうだ。


「条件がある」

「何だ」

「リーツに負けたら大人しく仕官するんだ」

「負けたら仕官……別にいいが、俺が勝ったら解放してくれ」


 勝ったら解放か。


 飲んでいい条件だろうか?

 まあ、向こうから望んだ戦いとはいえ、向こうが負けた場合は仕官するという条件で戦うのに、こちら側が何も賭けないのはフェアではないか。


 ただ、逃がすかどうかは私の一存で決めることは出来ないしな……後でクランに尋ねるか。


「それからもう一つ。仕えるならクランじゃなくて、お前に仕える。おっさんには仕えたくない」

「私にか?」


 それは良い申し出と言えば良い申し出だが……悪いと言えば悪い。この男、将来性は高そうだが、現時点では問題児と言わざるを得ない。私がこの男を矯正できるか、正直そこまで自信はない。


「私は子供であるが、それでも仕えたいのか?」

「まあ、本来なら俺の認めた凄い奴に仕えてぇが、お前は見る目があるようだし、仕えるのも悪くはない。ただ、リーツとの戦いには俺が勝つからお前に仕えることにはならねーけどな」


 自信はあるようだ。

 私としても、リーツが負けるとは思わない。

 いくら腕が立っても、頭が使えないのは大きなデメリットになる。

 リーツなら確実に勝利を収めてくれるだろう。


 そうだ。仮にこの男が私に仕えるのなら、リーツに教育係をお願いしてみよう。この男の性格なら自分を打ち負かしたものの言葉なら、素直に聞くだろうし、悪くない考えだ。


「その二つの条件を飲めるかはクラン様に聞いてみないと分からないが、多分大丈夫だと思う。だから少し待っていてくれ」

「早くしろよ」


 他に鑑定しなくてはならない人たちがいたので、すぐに出るわけにはいかなかった。

 ブラッハムから「何してんだ、早く行け」と急かされながら、私は残る者たちの鑑定を終えた。それなりに優れた能力の者はいたが、特別抜きんでて凄い者たちはいなかった。


 牢を出てクランに会いに行く。


「鑑定終わりました」

「ご苦労だった」


 まずは、才能のある人物の名を書いた書状をクランに渡した。そのあと、ブラッハムの件を説明する。


「決闘をして勝利したら仕官する。負けたら牢から出すか。ブラッハム・ジョー……聞かん名前だな。そいつは優秀なのか?」

「今はまだ未完成ですが、育てばかなりの将になる器です」

「ふむ……それで私ではなくお主に仕えたいと? なぜだ?」


 理由を正直に話すのも問題があると思ったので、少しマイルドな表現にして説明することにした。


「どうやら不遇な扱いを受けていたようで、クラン様もそうなさるのではないかと、心配しておりました。クラン様には大勢の家臣がいらっしゃいますので」

「ふむ……優秀な奴ならすぐに出世させるのだがな。まあよい。アルスよ、お主はブラッハムを家臣に欲しいと思っておるか?」


 リーツに教育させれば何とかなりそうだと思ったので、今は欲しいと思っている。私は正直に頷いた。


「はい」

「ならば、条件を飲むといい。お主の家臣は私の家臣でもあるからな。別に直属でなくても問題あるまい。お主ならば、ブラッハムを正しく育成するだろうしな」


 許可を貰った。

 私はお礼を言って、クランの下から立ち去る。


 リーツにもブラッハムと再戦するという事を事前に言っておいた方がいいだろう。

 多分受けると思うが、どうしてもだめという場合は、決闘はなかったことになる。


 リーツを探し出して、話をした。


「ブラッハム? あ、ああ……いましたね……とても強い方でしたよ……大きな弱点がありましたが……」


 記憶に残っているようだ。記憶に残るような負け方をブラッハムはしていたので、当たり前だろう。


「彼ともう一度戦って欲しいんだが、問題ないか?」

「別に構いませんが、なぜです?」


 私は理由を説明する。


「か、彼を家臣ですか? ほ、本気でしょうか?」

「本気だ」

「え、えー……アルス様がいうなら、ブラッハムには才能があるんでしょうが……」

「きちんと勉強すれば、頭も今よりかは良くなる。家臣になった際には、リーツに教育を任せたいのだが」

「え!? そ、それは勘弁してもらいたいです」


 再戦は断らなかったが、教育するのは抵抗があるようだ。

 確かに何を教えるにしてもあれでは苦労しそうである。


「大丈夫だ。勝ったらいう事を聞いてくれるだろう。思っているほど、苦労はないはずだ」

「ほ、本当ですかー?」


 リーツの疑いは深いようだった。


 とりあえず教育係の件は後回しにして、まずはブラッハムとの再戦するため、リーツをブラッハムの閉じこめられた牢へ連れていった。




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