第142話 理由

 私は、ブラッハムに仕官しない理由を尋ねた。


「何であなたはクラン様の仕官を断り、閉じ込められることを選んだんだ?」

「あ? 嫌だったからだ」

「なぜ?」

「嫌なものは嫌だからだ。あんなおっさんに仕えるのはごめんだ」


 年齢の問題で仕えられないのか? 

 中年の男に嫌悪感があるのだろうか。


「年取ったおっさんは頭の硬い奴が多い。ステファンのおっさんもそうだ。俺みてーな強いやつを冷遇してきやがったからな」


 強いのは確かだが、現時点のブラッハムは使い物になるか怪しいくらい知略が低い。妥当な判断だと思うが。


 要は仮にクランに仕えても、冷遇されるだろうと思っているから拒否しているわけか。


 確かにクランでも今のブラッハムを重用することはないだろう。


 しかし、この男はきちんと育成すれば、名将になれる可能性を秘めている。野心が高いので、扱い難そうではあるが……。


 一応説得をしてみよう。


「クラン様は実力のあるものを冷遇するようなお方じゃないぞ。仕えてみないか?」

「信じられん。そもそも俺は人に仕えるような器じゃないかもしれん。いずれ仲間を集めて、どっかの城を落として独立してやる」


 無謀としか言いようがない野望を語り出した。


「そんなこと出来ないだろう。そもそも仕えないとお前は殺されるぞ」

「こんな牢はすぐ抜け出すから、殺される心配などない」


 絶対に自分は死なないという自信が、ブラッハムの目には宿っていた。根拠があるのか分からないが、心の底から自分のことを信じているようだった。


「というかお前は誰だ。何でチビがこんな牢獄にいる」

「私はアルス・ローベントだ。まだ名前は知れていない小さな領地の領主である」

「ふーん。その年で領主なのか。お前がここにいるのはクランから説得を頼まれたからか? この俺を説得しろと」

「いや、才能あるものを見抜いてこいと命令されたからだ。私の特技なんだ」

「それで俺を見抜いたのか? その力、本物のようだな」


 さっきまで不機嫌な表情が一変し、嬉しそうな表情になる。単純なやつだ。


「実を言うと仕えられない理由はもう一つある」


 上機嫌になって口が軽くなったのか、自ら語り出した。


「俺がここに閉じ込められる原因となったあの一騎討ち。やつが卑怯な手を使ったせいで捕らえられた……負けて屈服させられたなら、俺も黙って従うが、あんな卑怯な方法でやられて、従う気にはなれん」


 卑怯な手で捕らえられた?

 まあ確かにこれだけの実力を持っているから、一騎討ちならそうそう負けないだろ。頭は弱いようだし、計略に引っかかる可能性は高そうである。


「あのマルカ人……許さん……」


 マルカ人? ってリーツの事か?

 ほかにマルカ人の兵は見覚えがないし、それ以外考えられないな。


 卑怯な方法をリーツが使ったのだろうか? ……ないとは言い切れないな。急いでいただろうし、まともに戦うより早いと考えれば、計略くらい使うだろう。


「あいつ……俺が奥義を使った後……槍が地面に刺さった隙に、俺の首に武器を突きつけやがった。普通待つだろ……あれだけの実力を持っているのになぜあんな卑怯な真似を……」


 ……卑怯というか自業自得だった。

 そんなに露骨に隙を作れば、やられるだろ。


 とにかくブラッハムは、負けたと思っていないのに、牢に入れられているのが、納得がいってないようだな。


 ならばもう一度リーツと戦わせて、リーツが勝ったら仕えるよう条件をつければいいのだろうか。


 お互い怪我をしないよう木剣でやればいいし、悪くないかもしれない。


 私は、リーツと再戦しないかブラッハムに持ちかけてみた。

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