第134話 スターツ城攻略戦③

 いきなり一騎討ちを申し込まれ、リーツは少し混乱する。


 何らかの策の可能性もあるので、返答せず相手の出方を見る。


 あまり策を考えられそうなタイプではなさそうだとリーツは思ったが、人を見た目で判断すると痛い目に遭うこともある。


「俺が勝ったら……そうだな。手下になってもらうぞ。マルカ人だろうが何だろうが、強ければ大歓迎だ」

「一騎討ちとは、どちらが死ぬことで決着が付くものだ。勝っても僕を手下には出来ないだろう」


 サマフォース帝国の習慣では、戦場での一騎討ちはどちらかが死ぬことで決着が着く。途中で降参したり情けをかけたりするのは、御法度だ。


 とはいえ古いルールなので、現代では破られる事も時折ある。


「あ? そーだっけか? じゃあ今回は特別ルールで、なるべく殺さないようにって事で。死んだらそん時はそん時だ」


 何とも強引なところのある男だ。


 リーツはどうするか迷う。


 少し戦って分かったが、相手は後方にいるとは思えないほど、精鋭ぞろいだ。


 下手に戦ってしまうと、負けてしまう恐れがある。

 勝ったとしても、かなり時間を取られることは間違いない。


 一騎打ちでも勝てるとは限らないが、勝負がつくのにそう時間はかからないだろう。


 敵の策略の可能性もあるが、どうもそういう感じには見えない。

 そもそも、この隊長の男が止めるまでは、敵が不意を突いた形になっており、リーツが立て直したとはいえ、敵の方が有利なのには変わりなかった。

 策など使わず、そのまま戦っていた方が良かったはずだ。


 彼らがこの強さで前衛ではなく、後方待機になっているのは、この状況で一騎打ちを本気で仕掛けてしまう、隊長の状況の読めなさが原因なのかもしれない。


 仮に罠だったとしたら、その時はきちんと対処すればいいと思い、敵がやってきそうな事を瞬時にいくつかシミュレートしてから、


「分かった、受けよう」


 と言い、前に出た。


「一つ聞くが、お前はこの城にある、重要な魔法施設の場所を知っているか?」


 勝ったら何でもすると言っていたので、教えてもらおうとリーツは考えた。


 さっきの隊長のように、場所を忘れている可能性も高いが、一応尋ねてみる。


「あー? えーと、防御魔法を発動させてる場所は知ってるぞ。それから、城の入り口に仕掛けられている罠を発動する場所も知ってる。あとはー、いざという時、町を燃やすための罠もあるから、それを発動させる場所も知ってるぞ。今町燃やしたらとんでもないことになるから、多分使わないと思うけどなー」


 知っているようだ。嬉しい誤算である。

 罠の内容をペラペラと喋っていることから、やはりこの男は少し頭が弱そうだとリーツは思う。


「僕が勝ったら、その情報を教えてもらう」

「な、何!? 貴重な軍事機密を教えるのか! それはやばいことだってのは流石の俺でも分かる。分かるけど別にいいだろう! なぜなら俺は最強で誰にも負けないから!」


 自信満々なようだ。


 頭の方は弱そうだが、その実力は決して低くなさそうだ。

 リーツは緊張感を高めながら、ハルバードを構える。


「俺の名は、ブラッハム・ジョーだ! スターツ城の最強の問題児とは俺の事よ!」


 胸を張りながら、大声で名乗りを上げる。

 問題児って、そんな胸を張りながら言う事か? と疑問に思いながら、リーツも名乗る。


「リーツ・ミューセスだ」


 こちら特に異名は名乗らなかった。そんなものを名乗りで使うのは恥ずかしいし、以前聞いた自分の異名は気に入らなかったからだ。


 名乗り終わり、しばらく睨み合った後、一騎打ちが始まった。

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