第131話 決戦開始

「クラン様! ご無事でしたか!」


 本陣に戻ると、ロビンソンがクランを出迎える。

 すでに暗闇も消えており、雨もやんでいた。


「お主も無事だったか。ロビンソン」

「はい。クラン様がご無事で何よりです。何とか兵たちをまとめて、敵を追い払ったかいがありました」

「兵をまとめてくれたのか。流石はロビンソンである」

「勿体ないお言葉です。それで、そちらの方がクラン様を助けてくれたのでしょうか?」


 クランの近くにはベンはいたが、ファムはいなかった。


「もう一人いるのだが……あまり注目を集めたくないのであろう。密偵だからな」

「密偵……もしやアルス様が言っていたシャドーですか」

「ああそうだ。本当にいい働きをしてくれた」

「本当に何度も助けてもらっていますね」

「そうだな。いい家臣を持った者だ」


 奇襲に気付き、ベンとファムを派遣したアルスを、クランは褒め称えた。


「さて、こうして話している時間も本当は惜しい。今すぐ軍を立て直して、スターツ城へと進軍を開始する」

「今すぐですか? 奇襲を受けたばかりで、兵たちは動揺しております」

「奇襲を受けた直後だからこそだ。敵将には恐らくトーマスがいた。奴は現時点で外に出ているため、戻るまで奴はスターツ城防衛の指揮を執ることが出来ない。トーマスがいなければ、敵は臨機応変に動けなくなり、ルメイルの奇襲も通りやすくなるだろう」

「なるほど……しかし、兵の動揺はどうやって抑えますか?」

「それは何とでもなる」


 クランは魔法兵を呼んで、ハイパーボイスを使わせた。


 そして、自分の声を大きくして、力強く自分の生存をアピール。


 敵は大失敗したと、堂々な声で宣言し、今こそがスターツ城を落とす、最大の好機であると演説をした。


 兵が動揺したときは、大将自ら堂々と声をかけるのが一番効果的であると、クランは良く知っていた。


 クランの無事を知り、さらに今がチャンスであると言われた兵たちは、士気が上昇する。


「よし、それでは全軍に音魔法で、出撃するという合図をせよ」

「はっ」


 魔法兵が、クランの指示に従い音魔法を使用し、ほかの場所に陣を構えている隊に合図を送る。


 スターツ城攻略のための、決戦が始まろうとしていた。





「クランの命は助けた。そのあと、すぐにスターツ城に向けて、兵を進めた」


 ファムとベンが成功の報告をしてきたので、私はだいぶほっとする。


 ここでクランが死んだら、大変な事になってしまうからな。


「よくやった」

「約束は守れよ」

「間違いなく守る。お前たちは今日から私の家臣だ」

「ありがとよ」


 まあ、正直こっちにしてもシャドーの面々が家臣になるというのは、ありがたい話なので、褒美を出しているという感覚はない。


「今度ほかの仲間も紹介してやる。家臣になったんだからな。だが今はほかにやるべきことがあるだろうから、あとでな」

「分かった」


 まだファムとベンしか、シャドーのメンバーは知らない。

 ほかに何人いるかも知らないので、結構興味はあったが、ファムの言う通り今はそれどころではない。


 クランがスターツ城攻略へ攻撃を仕掛けたらしい。

 かなり動きが早い。

 とにかくルメイルに報告して、こちらも出撃をしなければならない。


 私はルメイルに、報告をした。


「流石クラン様だ。動きが早い」

「トーマスの奴は、奇襲をするとき、自ら兵を率いるからな。確かになるべく早く侵攻するのは、理にかなっている」


 ミレーユがクランの行動の速さを評価した。


「クラン様が侵攻したというのなら、我々も手筈通りに、スターツ城へと奇襲を仕掛ける。今すぐ準備をせよ」


 ルメイルの命令で、準備を始め、そしてスターツ城へと向かって侵攻を開始した。



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