第130話 危機回避

 ファムはクランの奇襲に何とか間に合った。


 ほかの兵たちもバッサリと斬り捨てる。


 少女にしか見えない者が、あっさり敵を斬り殺す姿に、流石のクランも驚愕した。


 だが、驚いてばかりもいられない。


 自分も剣を取り、迫りくる兵士たちを倒し続けた。


 ファムとクランが目立って敵を倒す中、地味にベンも着実に敵を斬り倒していく。地味であるが、確かな実力をベンは持っていた。


 周囲はすっかり乱戦になっている。

 クラン、ファム、ベンは三人で背中合わせになった。


「お主見たことがあるぞ。アルスに仕えていたメイドだろう」


 ちらっと見ただけであったが、クランには見覚えがあった。


「…………オレはシャドーだ。アルスの依頼でアンタを助けにきた」


 攻めくる敵を、冷静に斬り倒しながら、ファムは名乗った。


「アルスからよく聞いている。来てもらったのに悪いが、この窮地……凌げるか? 敵が多すぎる」


 トーマスの兵たちは非常に統率されており、混乱している隙を突き、クランのいる場所まで一斉に攻撃を仕掛けていた。


 いくら精鋭で固められているとはいえ、これでは対処が難しい。


「大丈夫だ。策は打ってある。そろそろだな……」

「そろそろ……?」


 クランが疑問に思っていると、いきなり夜になったかのように、周囲が真っ暗になった。


 戦場が困惑する声に包まれる。


 それと同時に、剣を撃ちつける音や、敵に斬りこむ時に上げる雄叫びが、全く聞こえなくなった。


 歴戦の勇士たちばかりの戦場であったが、昼であった戦場がいきなり暗闇に包まれるという経験は皆無で、戦うのを一時中断したのだ。


 戸惑うクランの耳に、ファムは口を近づけ、


「決して暴れたりするな。数分しか持たない」


 クランだけに聞こえるようにそう言った。


 そのあとファムはクランの手を掴み、戦場を走り出した。


 そのあと、ほぼ暗闇の世界をまるで見えているかのように、ファムとベンは動き周り、戦場から誰にも気づかれずに脱出した。


 脱出した後、全力で戦場から遠ざかる。


「今のは?」

「影魔法の一種だ。影魔法の魔力水は貴重なので、あまり使いたくなかったが、あれで全部使い果たしてしまった。しばらくは商売あがったりだ」

「後で報酬をやろう。助かった。心の底から礼を言う」

「報酬は雇い主から貰うが……まあ、くれるものは貰っておこう」


 クランたちは、少し高いところまで行き、遠くから戦場の様子を眺めていた。

 数分後、ファムの言葉通り魔法の効果が切れる。


 効果が切れたあと、クランのいる場所ではなく、戦場から「クランを見つけたぞ!」という音魔法で増幅された声が鳴り響いた。


「あれもお前の策か?」

「念のためだ」


 影魔法と音魔法のかく乱のせいで、敵兵は統率を失い、徐々に押され始める。

 状況の悪化を察したのか、あっさりと撤退していった。


「引くか。ロビンソンらが無事ならいいが……とりあえず私はすぐに戻って、兵たちに無事を知らせなければ」


 先ほどの奇襲は、トーマス自らが率いていた可能性が高いとクランは考えていた。それだけ統率の取れた兵たちだった。


 つまり今のスターツ城には、トーマスがいないだろう。 


 今がスターツ城に攻め込む好機である。


 早々に混乱した兵たちを統率し、スターツ城へ攻め込む指令を一刻も早く出さなければならなかった。


 自分の姿を見せなければ、味方は纏まらないだろうから、クランは自陣へと早急に戻った。


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