第129話 奇襲を受ける

 クランはスターツ城を落とすための作戦を決行するのを、待ち続けていた。


 あと一日後にはスターツ城への総攻撃を開始する予定だ。


 ルメイルの軍が、きちんと作戦通りに動いてくれれば、敵の城を上手く制圧できるはずだと、クランは確信していた。


(……一つ気になることがある)


 それはちょっと前、敵陣から大型触媒機を持った部隊が離れ、戦場から遠いトーライ山に向かったということである。


 どれだけ考えても、今トーライ山に兵を配置する理由が思い浮かばなかった。


 あそこからでは絶対にここまで魔法を届かせることは出来ない。


 ただ敵将にトーマスがいるという事で、何らかの策である可能性も考えられる。


 非常に気持ちが悪いが、どういう策か分からない以上うかつに行動することは出来ず、監視することしかできなかった。


「すみませんクラン様……こういう敵の策は私が見破らないといけないのですが……」


 クランの右腕であるロビンソンが、悔しそうに言った。


「自分を責めるなロビンソン。何、これが敵の策と決まったわけではない」


 クランとしては敵の策が読み切れていない以上、あれは敵にとってもイレギュラーなトラブルによる行動で、決して何かの狙いがあるわけでなければいいと思っていた。


 すると、いきなりざぁーと雨音が聞こえてきた。


 ただの雨ではなく、結構な大雨である。


「雨ですか? 先ほどまでは晴天だったはずなのに……」

「珍しいな……」


 先ほどまで晴れていたのに突然雨が降るという事は、珍しいがあり得ない話ではない。


 ただ、クランは胸騒ぎを感じていた。


「クラン様!!」


 クランの下へ、魔法兵が駆けつけてきた。

 かなり慌てているようである。


「どうした」

「この雨は魔法によるものです! 恐らくトーライ山の大型触媒機によるものでしょう!」

「水属性の魔法か……? ベルツドでは水の魔力石も採れるとはいうが……しかし、狙いは……」

「奇襲です! それとしか考えられません!」


 ロビンソンが大声でそう言った。


「今すぐ兵に戦闘準備をさせねば……しかし、この雨では指示が届きにくい……魔法兵! 音魔法を使うのだ!」

「かしこまりました!」


 魔法兵が準備をしているまさにその最中、


「うわああああ!」

「て、敵だぁ!!」


 兵たちの怒声が聞こえ始めた。


「しまった!」


 指示を出す前に奇襲を受けてしまった。

 これでは兵が混乱し、指示が通りにくくなるだろう。


 クランは自身の経験から、今がかなりの苦境であると認識した。


「狙いはクラン様の御命です! ここはお逃げください!」


 それはクランも分かっているが、そう簡単に敵も逃がしてはくれないだろう。

 逃げ場を上手く塞ぎながら、奇襲を仕掛けているに違いない。


 雨によって、敵の接近に気づきにくく、かつ行動力も落ちている。


 今ここで下手に動いてしまったら、討たれてしまう可能性が高かった。


 とにかく声が届く位置にいる兵に声をかけて、自身の周囲の守りを固めた。この状態で援軍が駆けつけてくるまで、凌ぐつもりである。魔法兵には、とにかく兵たちに落ち着いて、自分がいる場所まで駆けつけるよう、命令を出し続けた。


 ただ敵兵の動きは思ったより機敏で、もうクランの周辺まで到達していた。


 兵の質がかなり高い。クランの周辺にいる兵は当然精鋭しかいないのだが、それが押されているくらいだ。


 遂に一人の兵がクランに斬りかかってきた。

 何とか自身の持っていた剣で応対し、逆に斬り捨てる。

 今度は数人の兵が同時に抜け出してきて、クランの首を取りにくる。


 何とか対応しようとするが、雑魚が数人ならまだしも全て手練れの兵たちだ。


 三人は斬り殺せたが、残りの一人が、クランの首にめがけて剣を振る。


(避けられん! 死ぬのか!? こんなところで!)


 死を覚悟したが、途中で何かがクランを斬ろうとした兵の首に突き刺さり、大量の血を吹きだして兵は絶命した。


 誰かがナイフを投擲したようだ。

 驚いて投げたものを確認すると、まるで子供にしか見えない男、ファムの姿がそこにはあった。

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