第128話 看破

「なぜ分かる?」


 ミレーユが、敵の動きの意味が分かると言ったので、私は質問した。


「敵軍にアタシの弟がいるとは、前に言ったよな。多分そいつが考えた作戦だ」


 弟の考えることは分かるという事か?


「どんな作戦なんだ?」

「大型の触媒機から攻撃は届かないが、今回の戦で有効となるのは、攻撃魔法じゃない。レインという魔法がある。短時間だが局地的に大雨を降らせる魔法だ。この魔法ならばクランのいる場所に、雨を降らせることが出来る」

「雨を降らせて……どうするんだ?」

「クランの陣取っている土地。ここは少し街道の整備が甘く、さらにぬかるみ易い性質の地面だ。雨が降ると機動力が奪われる。さらに、雨音でほかの音を聞こえにくくする効果がある。こうして機動力、聴覚を奪い、奇襲を成功しやすくするのが、トーマスの作戦だ。恐らく触媒機の部隊のほかに、気づかれずに奇襲部隊を動かしているのだろう」

「その奇襲でクラン様を殺すと……」

「そういう事だ」


 そう上手くいくのかという疑問もある。

 そもそも、山に向かっている大型触媒機をクランはなぜ潰さないのだろうか?


 私は尋ねてみる。


「なぜクラン様は、敵の大型触媒機を黙って山に向かわせているんだ?」

「敵の狙いが読めないからだろう。一見戦とは無関係なところに、兵を向かわせているとなると、それに兵を割く余裕はないだろうな。罠か何かである可能性も考慮しなくてはならないしな」


 確かに敵の狙いが分からない以上、下手に動くのは命取りになる。


「クラン様が殺されるのは、我が軍にとっては非常にまずい事態ですよ」


 リーツがそう言った。


 それは私もよく理解している。

 クランがいなくては、この軍の正当性が失われ、瓦解するだろう。

 私も出世がなくなるどころか、立場が怪しくなる可能性がある。

 それだけは避けなくてはならない。


「今すぐ山に向かっている部隊を倒すように、クラン様に進言しなくては」

「それじゃあ、間に合わん可能性が高い……そもそも、気づいたのが遅くて、もう物理的に間に合わないという可能性もあるな」

「そ……それは……」

「間に合わん可能性もあるが、絶対間に合わんとは言っていない。助けは出した方がいいだろう。なるべく早く現場に行けて、さらに奇襲からクランを救い出せるほど強い奴を」


 そう言われて、私の頭にシャドーのファムと、ベンの姿が思い浮かんだ。


 現在ちょうどファムがここに残っている。

 今すぐ頼むことが可能なはずだ。


「シャドーに任せよう」

「密偵傭兵か……まあ、それが一番いい方法かもしれないね」

「すぐ、依頼してくる」


 私はファムのもとに駆けつけ、依頼をした。


「総大将が死にそうなのか。それはまた大変なことだな」


 他人事のようにそう言った。

 まあ、実際彼からしたら他人事なのかもしれない。


「報酬は貰えるか?」

「あ、ああ、いくらでやってくれる?」

「金以外のものが欲しいな」


 大体金を報酬に要求してきただけに、私はその言葉を意外に思った。


「何が欲しいんだ?」

「オレたちを家臣にしてくれ」

「何?」

「前から傭兵って奴が、どうも不安定であまり好きじゃなくてな。先代から引き継いだんで仕方なくやってたが、仕官してもよさそうな奴がいたら、そいつに仕官しようと思ってたんだ」

「私は仕官しても良さそうなのか?」

「ああ。他人の能力を見抜く力といい、上手く誰かを説得する力といい、お前には見どころがあるからな。仕えてやってもいい」


 物凄く上から仕官してもいいと言ってきたが、私もシャドーが仕えてくれるのは、喜ばしいことである。


「分かった。お前の仕官を受け入れよう」

「交渉成立だな。末永くよろしく頼むぜ。ま、あくまで成功したらだけどな」


 最後に不吉な一言を残して、クランを助けに向かった。

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