第125話 吉報

 クラン軍の本陣。


 スターツ城、付近に布陣していた。


 本陣の椅子に座りクランは、渋い表情でこれからどうするかを考えていた。


(やはり待つしかないか……戦の出だしは良かったが、こうなるとはな……)


 今回の戦は、最初はかなり有利に進んでいた。


 街道に布陣した、ベルツド城からの援軍を初戦では大いに敗り、敗走させる。


 それからも、勝ち、スターツ城の近くまで進軍することが出来た。


 しかし、その際、敵はクラン軍の情報を戦いながら、上手く入手していた。

 そして、連戦で全軍の気が緩んでしまった隙を突いて、爆発の魔力水運搬部隊をピンポイントで狙われ、多くの魔力水が失われる結果となった。


 残りは少なく、元々優秀な魔法兵の少ないクラン軍では、この量では城壁や城門を破壊するのは不可能だと言えた。


 現在は布陣した場所から動けず、魔力水の供給を待っているが、冬が本格化すれば運送速度が遅くなるので、そうなると運ぶのに時間がかかり、長い間戦が出来なくなる。


 そうなると、敵に時間を与えることになる。

 現状それは避けるべきであると、クランは思っていた。


 兵糧の問題もある。


 元々潤沢な量、兵糧を用意してはいたが、あまり長引きすぎると、一度撤退して、態勢を整える必要が出てくる。


 諸々の理由から、本格的に冬に入る前にスターツ城は陥落させておきたいと、クランは考えていた。


(しかし、現状を考えると、それは難しい……防御が薄そうな場所はあるが……そこを突破するのも現状の爆発の魔力水では無理だ。仮に突破しても、攻めづらい場所の防壁を崩すことになるため、よほど敵の隙を突かない限りは、攻め込むのは困難だ……)


 クランは、これはもう犠牲は覚悟で、魔法の力に頼らずに力で落とすしかないのではないかと、思い始めていた。


 多くの犠牲を出してでも、スターツ城は陥落させる価値のある城だった。


 だが大量の犠牲を出す覚悟をして、攻めたのにも関わらず落とし切れなかった場合、甚大な被害を受けた状態で、撤退する羽目になる。


 そうなると、今まで攻め落としてきた城も取り返される可能性もあり、努力が完全に水の泡と化してしまう。


 それだけは何としても避けなければならなかった。


「アルスとその家臣たちがいれば、この状態を打開する策を打ち出してくれそうなものだが……」


 ロルト城からの援軍を止めるというのも、重要な任務であるため、信頼できる者に任せることにしたのだが、その判断は間違っていたのかもしれないと、クランは思い始めていた。


「クラン様、書状が届きました!!」


 そんな時、兵士が急いで飛び込んできた。


「誰からだ」

「ルメイル様からのようです」


 ルメイルは、アルスの上司である。

 即ちアルスからの策が書かれているかもしれないと思い、クランは急いで書状を開けた。


 そこには奇襲作戦を考えているから、本隊と連携したいという事が書かれていた。


(奇襲か……なるほど……これならこの状況を打開できるかもしれない。私が力攻めをする動きを見せれば、敵軍はこちらの動きを注視せざるを得なくなるだろう。そうなるとほかの守りは疎かになる……問題はルメイルに預けた兵だけで足りるかということだな。城内は城内で多くの兵がおり、簡単に防衛魔法を使っている魔法兵のいる場所までたどり着けないだろう。現在後方にいる兵たちを二千ほど、敵に気取られないよう動かして、ルメイル軍と合流させるのがいいだろうな)


 クランはそう考えて、急いで書状をロルト城まで送った。



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