第117話 野戦開始
敵軍が近くまで進軍してきたという報告が入った。
現状自軍はメイトロー傭兵団が離脱したということで、兵士たちに動揺した様子が見られた。
ここで士気を上げるための策を行う。
「よく聞け! メイトロー傭兵団は離脱したが、本隊から援軍が来るという話が入った! 援軍は数時間後に到着するだろうから、メイトロー傭兵団などいなくとも、十分勝利できるぞ!」
ルメイルがそう叫んだ。
もちろん援軍が来るなどという話は嘘である。
作戦の立案者はミレーユだ。
頭の良い者なら、嘘かもしれないと思うかもしれないが、だいたい普通の兵士はそれほど頭が良くないので、コロッと騙されるそうだ。
今回は離脱の影響で士気が下がっているので、兵がすぐ補完されると聞けば士気は上がるだろうと予想である。
実際にルメイルが援軍が来るという情報を伝えたら、兵士たちの表情が明るくなり始めた。
不安を感じていたようだが、あっさりと払拭されたようだ。
そして、敵が視認可能な地点までやってきた。
遂に野戦が始まるか。
すぐ突撃はしてこない。一度進軍を止めた。
流石に考えなしで突撃してくるなんてことはなさそうである。
敵は見えてはいるが、平原だから見えているだけで、距離はだいぶ遠い。
こっちからは弓を撃ったりして、攻撃を仕掛けることはまだ出来ない。
「来ないな……」
「こちらの動きを怪しんでいるのでしょうか?」
援軍がすぐに来るという情報は敵軍も知っている可能性があるが、仮にそうでも「すぐに来る」という点はあり得ないと分かっているので、ここで躊躇する理由にはならないだろう。
敵軍の動きを注意深く観察していると、ついに動きがあった。
大きな馬に乗った男が兵たちの前に出て、雄たけびを上げこちらに向かってきた。
それに大勢の騎兵が続いてくる。
騎兵の突撃を見て、兵士たちに準備をさせるようルメイルが合図を送る。
騎馬突撃の迫力を近くで見て私は身震いした。
訓練で何度か騎兵たちが走っているところは目撃したが、これほどまで多くの騎兵が走っているところは初めて目撃する。
馬が走ることによる地鳴りはかなりの大きさで、まるで地震でも起こっているのかと錯覚するくらいである。
前衛の兵があれを恐れてしまい崩れてしまうと、なし崩しに全軍が崩れてしまうだろう。
騎馬が弓の射程圏内付近に来たとき、弓を構えさせて一斉に弓兵が射撃を始めて、騎兵に矢の雨を降らせる。
ただ熟練した騎馬兵なため、上手く矢を叩き落としたり避けたりして、あまり当たらない。
そして魔法兵だが、今回は大型触媒機は持ってきていない。あれは攻城用のため、野戦では不向きだからだ。
それから限りある爆発の魔力水も攻城戦に使わないといけないので、今回使えるのは炎魔法と音魔法だけである。
攻撃出来る魔法に限り言えば、炎魔法だけだ。
中型と小型の魔法兵が炎魔法を一斉に準備し、放ち始めた。
何の対策もしていない弱い騎馬隊なら、この魔法攻撃であっさり殲滅されたりするのだが、今回の相手は違った。
馬の上で魔法を使う、魔法騎兵がいた。
魔法騎兵が防御魔法を使い、炎属性の攻撃を防ぎつつ突撃してくる。
魔法は才能あるものでしか使えないうえに、馬に乗りながら使うのは非常に難しいので、魔法騎兵は育てにくいが、魔法が飛び交う戦場で騎兵をうまく活かすならいないと難しい。
「防御魔法が何だ」
中型の触媒機を持っているシャーロットが呪文を唱え始め、ブレイズという強力な炎属性の魔法を使用。
低級魔法であるファイアバレットで、大爆発を起こすシャーロットが使ったブレイズは圧倒的な威力を発揮し、敵の防御魔法を木端微塵に粉砕し、大量の騎兵を吹き飛ばした。
「おお!」
「流石はシャーロットだ」
これで相手に強い衝撃を与えたと思ったが、物ともせず突撃してくる。
「てめーら!! この程度でビビったらあとで殺すからなぁ!!」
大声で叫んだのは敵の騎兵を率いている大男だ。
ハイパーボイスで声を拡張しているのかと思ったが、男が持っているのは触媒機ではなく長いハルバードなので地声なのだろう。
あの男はかなり有能なようだ。
私の近くで馬に乗って待機していたリーツが、馬に乗ったまま弓を構えて男にめがけて矢を放った。
万能であるリーツは、弓の扱いも上手だ。適性がAだからな。
男の移動速度も計算に入れ、正確に男の頭部に矢をコントロールしたが、あえなくはたき落とされる。
連射するが、同じ結果だった。
「中々手ごわいですね」
相当高い武勇を持っていそうだな。
鑑定できる距離にいないから数値は分からないけど。
騎馬隊は歩兵の守る位置に突撃する。
この時、魔法騎兵が炎属性の魔法で防柵を破壊しようと、魔法を連打。
防御役の魔法兵が、防御魔法を使用しそれを阻止。
しかしいくつかの防柵は燃やされてしまい、その隙間から騎馬突撃が襲い掛かる。
槍を構えていた歩兵たちだが、騎馬隊の勢いに負ける。
このまま突撃されて崩れるのはまずいので、即座に弱くなったところをカバーに行かせ、援護させる。
しかし、勢いのある騎馬突撃をくらい前線の状況はかなり悪くなっているようだ。
「ふーん、思ったより練度が高いね。こりゃ普通に戦ってたら負けてたかもね」
ミレーユがのんきにそう言った。
「言ってる場合か。下手したら策があっても負けかねんぞ」
「それは大丈夫だ。上手い具合に劣勢になってるから、後退しても敵に罠だと思われないだろう。大崩れしたらまずいから、それは何とかしないとね」
それからロセルとミレーユがルメイルに話をしに行き、全軍が後退を始めた。
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