第116話 作戦
「お、シャドーからの情報が来たよ」
ミレーユが持つ触媒機に、トランスミットの音が届く。
かなり長い間、音が鳴り続けた。こんなに長くても解読可能なのだろうかと心配になるくらいだが、杞憂だった。
「敵軍の情報が入った。約十時間後にここに到着する。かなり速いペースだ。相当援軍に行くのを急いでいるのは間違いない。士気は高そうであるとの報告も入った」
届いた情報をミレーユは淡々と説明した。
「敵軍はやはり一刻も早くスターツ城への援軍に行きたいようですね」
それも当然の判断だろう。
悠長に進軍していたらスターツ城が落とされてしまうからな。
罠にかけるには好条件だろうが、果たしてどういう罠を仕掛けるか。
魔法での罠はそう簡単に設置できるものではなく、設置に三日は要するのでここで使うのは不可能だ。
「やはりこの作戦が一番いいと思う」
今まで黙って何かを考えていたロセルが、いきなり口を開いた。
「何か思いついたのか?」
「うん。敵を誘い込むいい方法を思いついた。まず俺たちの後ろに森があるでしょ?」
「あるな」
この街道は森を通っており、ちょうど自陣がある場所の後ろに森がある。
森に陣を置くという意見もあったが、こちらが敵軍の倍以上人数がいるという事で、数の利を生かしやすい平地に陣を置くことに決まった。
「兵を隠す。そして誘い出してから森から弓矢魔法の雨を降らせる。騎兵は奇襲に弱い。特に遠距離からの奇襲には対抗できないから、大混乱になるのは間違いない。隠しておくのは弓兵と魔法兵だけではなく、歩兵も隠しておく。逃げようとする敵を挟み撃ちにして、壊滅させる」
誘い込みか。
敵は進軍を急いでいるだろうから、割と成功しそうではあるが。
「問題がある。敵軍はたしかに進軍を急ぎ注意が散漫になっているだろうが、斥候くらいは出しているだろう。ある程度こちらの動きは見られているはずだ。普通にやったらばれてしまうよ」
ミレーユがそう指摘した。
「演技をして、本当に大勢の兵が離脱してしまったかのように見せかけ、その兵を森に配置すればいいと思います。敵は騙されて、こちらの統率がとれていないと見れば、調子に乗るだろうから誘いやすくなると思いますよ」
「演技をさせるか……しかし、自軍の兵全員に離脱であることを敵にバレずに伝えるのは困難だし、士気が落ちてしまう恐れがある」
今度はリーツからの指摘があった。
「そこは懸念すべきことだけど」
「まあ、士気に関しては上手くやれば何とかなるだろうさ」
兵の士気を上げる方法をミレーユは知っているようだった。
何度も兵を率いた経験があるから、自信はあるようである。
「離脱をさせるのは誰にする?」
「メイトロー傭兵団に離脱させるのが、一番真実味があるかと。土壇場で話が決裂して、離脱したとしてもおかしくはないですし。さらに敵はメイトロー傭兵団を警戒しているでしょうから、いなくなったと知ったら油断を誘えそうでもあります」
「メイトロー傭兵団なら奇襲をするのも上手くやってくれそうではあるね。問題は本当に離脱してしまわないかだけどね」
この場にクラマントもいるのだが、ミレーユは全く遠慮せず疑念を口にした。
「俺は別にその作戦に問題があるとも思わんし、やれと言われたらやるだけだ」
「どう思う? 坊や」
クラマントの言っていることは私は本当であると思う。
進化した鑑定スキルでもなお、本心を推し量ることは不可能であるが、ここで離脱する理由は薄いと思う。
奇襲を嫌っている性格ならまだしも、クラマントは勝つためには汚い手段でも問題ないと思うタイプであるだろう。リアリストであるようだしな。
「私はクラマントは信頼できると思う」
「じゃあ、私はその作戦で良いと思うよ。成功するかどうかは指揮官の腕にかかっていると思うけど」
作戦を考えたのだが、やるかどうか決定するのはルメイルである。
ルメイルに作戦を思いついたと、先ほど考えた作戦を話したところ採用された。
まず最初にクラマントが離脱をした。
騙されてくれればいいのだが。
そして数時間後ついに敵軍が自陣のすぐ近くまで進軍してきた。
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