第115話 決定

「……緊急事態である」


 自陣に設置された天幕の中で、貴族たちを集めて緊急の軍議が始まった。


 私と家臣たちも当然参加している。


「敵が援軍を得て、我が軍とほぼ互角の軍勢になった。こうなると勝てるとは限らぬ。我らもクラン様に援軍の申請をすべきであろうか?」


 ルメイルが少し焦った表情でそう尋ねた。


「クラン様の援軍は……間に合わないかと思います……現在、どこまでクラン様が進軍されたかは存じませんが、敵がここまで来るのはかなり速いでしょう。情報を伝えて、それから援軍がここまで到達するのより、遅いとは思えませぬ」

「そうか……では援軍を要請し、殿を置いて時間を稼ぎつつ、我々は後退する。そうすれば援軍も間に合い戦力十分で戦えるのでは?」

「それなら確かに援軍も来れると思うのですが……」


 ロセルが少し悩む。


「貴様らが何を悩んでいるのか、俺には分からん」


 軍議に参加していたクラマントが口を出してきた。


「敵の数は同数なんだろ? ならば戦って勝てばいいだけだろう」

「簡単に言ってくれるがな……敵は兵の質が高く、かつ士気も高い。こちらは楽勝ムードで来ているため、敵が予想以上に多いと知れば、士気が下がる恐れがある」

「質が高かろうと、俺たちよりは高くないだろう。負けることはない。それとも実力を疑っているのか?」

「いや、メイトロー傭兵団の実力を疑ってみているわけではないが……」


 信用は出来ないと、ルメイルは言いたそうだ。

 同数になり仮に劣勢になった場合、すぐに撤退をする可能性がある。


「一応言っておくが、俺たちは値段相応の働きは必ずする。俺たちはそうやって生き残ってきた。クラン・サレマキアからは莫大な契約金を貰っている。当然それ相応の働きはする」


 ルメイルの心配を察したのか、クラマントはそう言った。


「アタシはここで引くのは反対だね。戦力はあくまで五分、倍になったわけじゃない。撤退するのは一戦交えてからでもいいだろう」

「しかし師匠。敵は騎兵なので一戦交えて撤退した場合、殿が失敗して追い付かれ壊滅状態にさせられる可能性があります。そうなると、勝利で勢いづいた敵兵が本隊の背後を突くという極めて悪い事態になる可能性がありますよ」


 ロセルがそう言った。


「それは一理ありはするね。だが、ここで引いて援軍を求めることになっては、本隊の侵攻に支障をきたす恐れがある。こっちを引き留めても、スターツ城を本隊が落とせなければ、負けになる。戦の目的を見失ってはいけないよ」


 ミレーユが反論した。


「そうですよね……しかし、挟み撃ちになって、全軍が壊滅的な被害を受けてしまえば、戦の続行が不可能になりますし……そうなると立て直すのに相当な時間がかかるというか、クラン様が討ち取られるという最悪の事態になる可能性も……同じ負けでも負けの度合いが変わりますよね……このまま迎え撃って勝つのが確実に一番いいのですが……勝率はどのくらい……?」


 そのあとロセルはブツブツと呟きながら、一人で考え始めた。

 色々と考えることのある結構難しい局面であるようだ。


「僕はこのまま迎え撃つべきだと思いますね。勝てぬ戦はすべきではないですが、今回はそうではないでしょう。士気は高いでしょうが、敵は援軍に一刻も早く駆けつけたいと思い、気が焦っていると思われます。そうなると、色々作戦も立てられるでしょう」


 リーツは戦う事に賛成のようだ。


「うむ……アルスよ。お主はどう思う?」


 ルメイルが、私に質問をしてきた。


 まあ、正直言ってしまえば逃げ出してしまいたい。

 五千でもちょっと怖いのに、一万はかなり怖い。


 とは言え、それはあくまで感情の問題で、一度引くのが最善の選択かは分からない。

 敵の将を鑑定してはいないから、はっきりとしたことは言えないけど、こっちには凄い人材が何人もいる。敵にそれ以上の人材がいる可能性は低い。

 確実に敵軍は焦っているだろうから、それを突くのは可能だと思う。

 敵の数が予想より多かったことでの自軍の士気の低下も、何とかしてくれそうだ。

 ここで戦わずに引けばクランの評価が下がる恐れもある。


 総合的に考えて、ここは今のまま迎え撃つべきだな。


「私はこのまま迎え撃つべきだと思います」

「……そうか」


 それからルメイルは、ほかの貴族たちにも意見を聞く。


 消極的な意見は少なかった。


 それらの意見を受けて、ルメイルは、


「このまま敵軍を迎え撃つ。急いで戦闘の準備を整えよ」


 そう命令をした。


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