第113話 ロルト城

 ロルト城。


 現在、窮地に追い込まれそうになっているこの城では、城主が家臣たちと長い軍議を行っていた。


「しかしリューパ殿が寝返るとはな……はっきり言って予想外だ……」


 ロルト城、城主であるジャン・テンドリーは神妙な表情でそう呟いた。

 まだ二十二歳と若い城主だ。長めの金髪に、端正な顔立ちの男である。


 リューパの人格を知っていたジャンは、真面目で忠誠心の厚い人物であると思っていたため、裏切りは予想外だった。

 実際は心の内に、出世欲を持っていたリューパであるが、それを見抜くことはジャンは出来なかった。

 ジャンだけではなく、リューパにバルドセン砦を任せたカンセスにも見抜けなかったことではある。それだけ己の野心をリューパが隠して生きてきたということであった。


「報告します。敵は軍を二手に分け、本隊でスターツ城へ進軍し、分隊はこのロルト城に進軍してきているようです」


 伝令兵がそう報告してきた。


「やはりそうなったか……こちらに向かってきた敵の数は?」

「一万以上はいます。さらに敵の軍にメイトロー傭兵団の姿があったと報告がございます」

「……一万は多い上に、あの名高いメイトロー傭兵団がいるのか……」


 ロルト城の兵力は五千である。

 敵の兵が弱いとなれば、倍の数でも何とかする自信はジャンにはあったが、メイトロー傭兵団のような強力な兵がいるとなると、流石に勝利する確率は大きく下がる。


「敵がどれだけ多くても、我々は出撃してスターツ城へ援軍を出さねばなりません! ジャン様、出撃のご命令を!」

「そうです! 我が軍は強力な騎馬隊があり、どんな敵でも打ち破って見せます!」


 家臣たちがそうジャンに詰め寄った。

 ロルト城は騎馬隊が有名で、馬の扱いが上手な者たちが集まっている。

 強さに自信があるため、敵が倍の数いると聞いても怯む者はいなかった。

 城主であるジャンも、馬の扱いの腕は広く知られており、戦でも何度も騎馬隊を率い戦果を挙げてきた。


「待て、慌てるな。確かに我が騎馬隊は強力無比だが、敵に強兵がいて、倍の数もいるとなると無策で戦っては勝ち目はない」


 ジャンは血気盛んな家臣たちを諫めるようにそう言った。


「と言いますと、策を練ると?」

「ああ、実はもうすでに手は打ってある」

「手ですか?」

「そうだ。成功するかは賭けなのだが……」


 ジャンが不安そうな表情でそう呟いた時、


「報告があります!!」


 別の伝令兵が大急ぎで駆けつけた。


「ハンダー様からの書状を持ってまいりました!」

「!! 来たか!」


 ジャンは伝令兵が取り出した書状を受け取り、急いで中身を読んだ。


 そして、


「この戦……勝てるぞ……」


 笑みを浮かべ、そう呟いた。


 ジャンは立ち上がり、


「出陣の用意をするぞ!」


 と家臣たちに命令を出した。



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